目標を設定したり、それに向けて頑張ったりすることはあると思います。そのとき、特に他人が関わってきたり自然に関することだったりする場合に、自分でコントロールできる割合を考えたほうが、ストレスが少なくなったり、反省の仕方がうまくなったりするというお話です。
分離化学工学で S を取ることを目標にする学生がいたとします。すばらしい目標です。目標達成に向けて、講義の内容を理解しようとしたり、課題に取り組んだりするでしょう。ただ、ここで考えなければならないのは、評価をするのは、つまり成績が S かどうか判断するのは、教員 (分離化学工学では金子) ということです。自分では、”S を取れるほどのでき具合だ!” と思っていても、S でない可能性もあります。教員の評価のように、自分でコントロールできないことがあるわけです。
一方で、一週間で 1 時間は勉強する、とか、焼酎を作れるようになるまで蒸留を理解する、といったことを目標にする学生について考えてみましょう。こちらの場合は、自分でコントロールできる割合が大きいです。もちろん、事故に巻き込まれて勉強できなくなってしまう可能性は 0 ではありませんが、それはとても小さく、基本的には自分の頑張り次第で目標を達成することができます。
- S を取る
- 蒸留を理解する
目標としてどちらも素敵だと思います。ただ、達成できたとき・達成できなかったときの反省のしかたはそれぞれ異なりますね。前者は、教員の評価という (もちろんそれも考えて勉強したり課題に取り組んだりすると思いますが、) 自分ではどうしようもないことがありますので、仕方がない、といった反省にもなります。当然のことです。ただ、目標未達がストレスになる人にとっては、一定確率でそのストレスを感じることになってしまいます。一方で、後者の場合は、もちろん前者と同じように努力は必要ですが、基本的に自分でコントロールできる範囲で、目標を達成できます。自分の頑張り次第で、ストレスをなくすこともできます。
研究の場でも同じことがいえます。
目標として、
- 研究成果を出す
- 一週間で 5 回実験する
これらはどちらも素晴らしいと思います。ただし、自分でコントロールできる割合としては、後者の方が大きいです。基本的に研究は、広い意味での自然を相手にしていることが多く、不確定要素もあるため、どれだけ頑張っても、なかなか研究成果が出ないこともあります。研究成果を出すことを目標にしている人にとって、ストレスになってしまいます。すべてを自分でコントロールできるわけではないのです。一方で、後者の “一週間で 5 回実験する” であれば、基本的には自分でコントロールできます。
目標未達のとき、反省の仕方も変わります。前者では、ある程度 仕方がない要素が出てきてしまいますが、後者であれば、実験計画とか実験のための事前準備の改善など、自分のコントロールできる範囲で反省できます。
そして、研究成果が出たあとについて、
- 有名ジャーナルに論文を通す
- 一ヶ月で論文を完成させる
といった目標があるとします。どちらも素敵と思いますが、自分でコントロールできる割合が異なりますね。論文が採択されるまでには、査読者 (reviewer) からの評価がよくなければなりません。もちろん、評価がよいと考えた研究成果なので論文を書こうと思うわけですし、評価がよくなるように丁寧に論文を書くわけですが、査読者も他人なので、どんな評価になるかは、自分ではコントロールできません。後者であれば、もちろん頑張りは必要ですが、自分でコントロールできる範囲内です。
以上のように、他人や自然などが関わってくるとき、自分でコントロールできる割合を考えて目標を設定したり頑張ったりしたほうが、ストレスもコントロールできたり反省の仕方もうまくなったりします。
ちなみに、自分でコントロールできる範囲内に目標を設定しましょう、コントロールできる範囲内で頑張りましょう、といっているわけではありませんし、自分でコントロールできる範囲外のことは考えなくてよいといっているわけでもありません。実際にわたしも、自分のコントロールできる範囲外である “学生の理解度” を高めることを目標にして、教材を作っています。大切なことは、今の状況はどれくらい自分でコントロールできるのか、について押さえておくこと、そして、自分のコントロールできる範囲外で思うようにいかなくても、仕方ない、と考えられる心のゆとりを持つこと、です。
以上です。
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