予測精度の高い適応型ソフトセンサーを検討するときの2つのポイント

分子設計・材料設計・プロセス設計・プロセス管理において、分子記述子・実験条件・合成条件・製造条件・評価条件・プロセス条件・プロセス変数などの特徴量 x と分子・材料の物性・活性・特性や製品の品質などの目的変数 y との間で数理モデル y = f(x) を構築し、構築したモデルに x の値を入力して y の値を予測したり、y が目標値となる x の値を設計したりします。

各種装置や化学・産業プラントでは、測定が困難なプロセス変数の値を、容易に測定可能なプロセス変数の値から推定するソフトセンサーが用いられています。ソフトセンサーの予測精度を高く維持するため、プラントで測定された最新のプロセスデータ(x と y の揃ったサンプル)を活用する適応型ソフトセンサーが一般的です。適応型ソフトセンサーの詳細については、こちらの書籍をご覧ください。

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回帰分析手法やクラス分類手法にたくさんの種類があり、今も新しい手法が開発されているのと同様に、適応型ソフトセンサーにも様々な種類があり、今も新たな適応型ソフトセンサーが開発されています。予測精度の高い適応型ソフトセンサーを検討する際には、次の2つの視点が重要ですので、ここで説明します。

 

1. x と y との間の関係が一貫したサンプルでモデルを構築できているか

まず、モデルを構築するときの話です。装置やプラントでは、時間が経過するとそのプロセス状態が変化することが多いです。言い換えると、過去の x と y の関係と、現在の x と y の関係が異なります。もちろん、そのプロセス状態の変化に対応するため適応型ソフトセンサーを用いているわけですが、どんな適応型ソフトセンサーでも全ての装置・プラントにおけるプロセス状態の変化に対応できる、というわけではありません。

例えば、Just-In-Time (JIT) 型の適応型ソフトセンサーでは、x の空間で類似したサンプルのみを用いてモデルを構築したり、そのようなサンプルほど重みを大きくしてモデルを構築したりしますが、その中に x と y の関係が異なるサンプルが紛れている可能性もあります。Moving Window (MW) 型の適応型ソフトセンサーでは、時間的に近いサンプルのみを用いてモデルを構築しますが、その中にプロセス状態変化が起こる前のサンプルが含まれていると、x と y の間の関係が一貫していない可能性があります。

モデルが x と y の間の関係が一貫したサンプルで構築できているかを確認し、できていない場合には、サンプル選択や x の追加などで、一貫したサンプルのみを用いてモデルを構築するようにしましょう。

ちなみに、x と y の間の関係が一貫していれば、データセットにおけるサンプルにおける時間的な連続性が分断されていても (だいぶ過去のサンプルと直近のサンプルが混在していても) 問題にはなりません。例えば、過去のサンプルと直近のサンプルを合わせて1つのモデルを構築することになっても、(x と y の間の関係が一貫していれば) OK です。実際、JIT 型では x の類似度のみでサンプルが選ばれているため、このようなことも起こります。もちろん、時間的に近いサンプル同士では x と y の関係が一貫していることが多いですが、急激なプロセス状態の変化などが起こると、それでも x と y の関係は変化する可能性があります。大事なことは、x と y の間の関係が同じであるサンプルのみを用いてモデルを構築することです。

 

 2. 予測する x のサンプルとモデルそれぞれの、x と y の間の関係が一致しているか

x と y の間の関係が一貫したサンプルでモデルを構築できたとしても、その関係と、今まさに予測したい x のサンプルにおける x と y の関係が異なっていたら、y の予測誤差は大きくなってしまいます。もちろん、現在時点での y の値は分からないので、本当に x と y の関係が一致しているかどうかを直接検討することは不可能ですが、これまでのサンプルを用いて予測した結果と実際の結果を突き合わせることや、x と y の関係の経過を追うことで、プロセス状態ごとに次の y の予測を過去の x と y のデータから検証できるようにしましょう。

 

上記2点を意識しながら、ご自身が扱う装置・プラントにおけるデータセットを用いて、各適応型ソフトセンサーの検証を行ったり、新たな適応型ソフトセンサーを開発したりすると良いでしょう。

 

以上です。

質問やコメントなどありましたら、X, facebook, メールなどでご連絡いただけるとうれしいです。

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