あなたのドライビングフォース(駆動力)は何でしょう?~物質(モノ)・熱、そして人を動かす~

律速に引き続き、化学工学において大事であり、広く社会にも通じる概念です。身近なところでは、洗濯物を早く乾かせたり、熱いものを早く冷ましたりするのに関係します。そこから、人をどう動かすかに通じるのです。

ドライビングフォース (driving force)、日本語でいうところの駆動力は、何かが動く力・何かを動かす力です。化学工学において、『移動』はとても大切です。物質(モノ)・熱・運動量・電荷がどのように動くのか、どのようにしてそれらを動かすのか、一生懸命考えています。ちなみに移動と一緒に重要な概念に、『平衡』がありますが、今回は省きます。

熱の移動

まずは熱について考えてみましょう。熱は温度が高いところから温度が低いところに動きます。熱いコーヒーがだんだん冷めていくのは、コーヒーの温度が高く、まわりの温度が低いため、コーヒーからまわりに熱が動くということです。お風呂に入って温かく感じるのは、お湯の温度が体温より高いため、お湯から肌に熱が動くということです。

このとき、高い温度のところと、低い温度のところの境目を見てみましょう。ちょうどお湯と肌とが触れ合うところです。この部分を細かくみて、あるとても短い幅を考えます。そうしたときに、熱が動く力(熱を動かせる力)、つまりドライビングフォース(駆動力)

ドライビングフォース = 係数 × (高いところの温度 ー 低いところの温度)

と考えます。係数には何かの数字が入り、それはお湯とかコーヒーとかの種類によって変わります。

上の式は、温度の差 (お湯と体温との温度差) が大きいほど、より大きく熱が移動することを表しています。お湯の温度が高ければ高いほど、熱く感じることからもわかると思います。

物質(モノ)の移動

次は物質(モノ)の移動です。モノは、濃度が高いところから濃度が低いところに動きます。お風呂に入浴剤を入れると、自然に広がっていきますよね。これも、入浴剤があるところからないところへ、つまり濃度が高いところから低いところへ、入浴剤が移動しているのです。コーヒーにミルクをいれたときに、ミルクがジワーっと広がるのもそういうことです。

わたしは人混みが苦手で、人が少ない方を探して動きますが、一般的にいっても、モノはまわりにモノが少ない方に動くのですね。

さて、熱と同じように、濃度が高いところと、低いところとの境目を見てみましょう。コーヒーとミルクの境目のようなイメージです。この部分を細かく見て、ある小さい幅を考えます。そして、モノが動く力(モノを動かせる力)、つまりドライビングフォース(駆動力)

ドライビングフォース = 係数 × (高いところの濃度 ー 低いところの濃度)

と考えます。熱のときと同じように係数には何かの数字が入り、モノの種類によって異なります。

濃度の差が大きいほど、よりたくさんモノが移動することを表しています。

ドライビングフォース

熱のドライビングフォースと、モノのドライビングフォースを見てみました。両方とも形が似ていますよね。ちなみに運動力や電荷も同じ形で表せます。実にエレガントです。

まとめると、

ドライビングフォース = 係数 × 物理量の差

です。物理量というのが、

  • 熱移動・・・温度
  • 物質移動・・・濃度
  • 運動量移動・・・速度
  • 電荷移動・・・電位

となります。

*参考:今回は 「ある小さい幅」 としたため、その幅での「物理量の差」となりましたが、一般的には「物理量の勾配(傾き)」になります。

物理量の差、つまり温度の差が大きいほど、濃度の差が大きいほど、熱は大きく移動しますし、モノも大きく移動します。

生活の中でドライビングフォースを感じてみよう

風が強い日は洗濯物が早く乾きますよね。室内干しをするときに、一緒に扇風機を回す人もいるでしょう。このように風によって洗濯物が早く乾くのもドライビングフォースで説明できます。

洗濯物が乾くということは、水というモノが、洗濯物から空気中に移動することを意味します。早く乾かせるためには、ドライビングフォースを大きくすればよいのです。物理量の差、つまり ( 水がたくさんあるところ[洗濯物]の濃度 ー 水があまりないところ[空気中]の濃度 ) を大きくします。

仮に、洗濯物における水の濃度が100、空気中の水の濃度が50としましょう。濃度を、湿度として読み替えるとわかりやすいかもしれません。洗濯物付近を細かくみます。すると、風がないときは、洗濯物から離れるにつれて、濃度100からだんだんと濃度が小さくなり、いずれ50になります。この状態を平衡状態といいます。

ある小さい幅 h を考えたときに、図において右から左に水が動くドライビングフォースは

ドライビングフォース = 係数 × 右と左との濃度の差

となります。

次に、風をおこしてみましょう。すると、上の図の平衡状態がくずれ、下の図のようになります。洗濯物付近が、刈り取られるイメージです。

これにより、小さい幅 h における濃度の差が大きくなるため、ドライビングフォースが大きくなる、つまりたくさん水が空気中に移動する、というわけです。

熱い食べものをフーフーすることで早く覚めるのも、熱の移動とドライビングフォースを考えると、洗濯物が風で早く乾くのと同じことです。

人を動かす

ドライビングフォースで人を動かしてみましょう。繰り返しになりますが、

ドライビングフォース = 係数 × 物理量の差

です。人を動かすときの 『物理量』 で何でしょうか。これは人によって異なります。そのため、まずはその人が動く 『物理量』 を考えなければなりません。

  • お金
  • 名誉
  • 地位
  • 権力
  • 達成感
  • 社会への貢献度
  • 自分の成長
  • 他人への認知度
  • ・・・

などいろいろありますね。あなたが動かしたい人は、どの特徴量の差を大きくすれば動いてくれるか、考えるわけです。

そして、対象となる 『物理量』 がわかれば、その差が大きくなるようにするわけです。そうすれば、人は動いてくれます。

ちなみに、ここでいう人は、他人だけでなく自分も入ります。

この記事は、わたしが修士を修了するときの修了式における、中尾真一先生の送辞の影響を大きく受けています。夢を高くもつことで、それだけ夢へのドライビングフォースが大きくなる、といった内容でした。強く心に残るスピーチでした。

以上です。

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