英語について、英語圏に長期的には住んだことのない研究者として考えていることを書きます。念のため、翻訳家の方・通訳の方・英語が趣味の方など、英語それ自体が目的の方に向けたものではありません。
ちなみに、わたしは生粋の日本人で、帰国子女でもありません。英語は、中学までは義務教育だけ、高校まで受験勉強の範囲内でした。今は大学の教員であり、教育・研究の両面がありますが、今回は研究という一面のみから英語について書きます。
前置きが長くなりました。
わたしが英語についてのスタンスは、
- 英語ができるに越したことはない
- 英語は伝えたいことを伝える手段であり、それ自体が目的ではない
ということです。そして、英語と付き合い、英語を学習するときに考えるべき大切なことは、
時間は有限
ということです。もし時間が無限にあるなら、ネイティブ並みになるまで英語を学ぶ、ということも考えられますが、時間は限られていますのでそうはいきません。研究者として他のことにも時間を使う必要があるのです。
そこで、『英語は伝えたいことを伝える手段』として使えるように、効率的に英語を学ぶ、となるわけです。
そもそも、研究者の目的ってなに?
研究者の目的は
研究成果を出してそれを広く伝えること
であるとわたしは考えています。誤解を恐れずにいえば、いくらすばらしい研究成果をあげても それが誰にも伝わらなかったら意味がない、ということです。誰かに伝わってはじめて、研究者として意味をなすわけです。なので大事なことは、
相手に何が伝わるか
となります。
相手が日本人ならば、相手に伝わるコトは、『研究成果』と『コミュニケーション力』と『日本語力』との かけ算 で表されます。つまり、
相手に伝わるコト = 研究成果 × コミュニケーション力 × 日本語力
ということです。一方、相手が日本語を理解できず、英語を理解できる人ならば、
相手に伝わるコト = 研究成果 × コミュニケーション力 × 英語力
となるわけです。
『研究成果』と『相手に伝わるコト』は一致しません。100の研究成果があっても、英語力が0なら(コミュニケーション力がいくらあっても)、相手には何も伝わらないわけです。
そこで研究者が英語を学ぶ目的は、
伝えたいことを伝えること
になるわけです。何らかの伝えたい研究成果があることが前提条件です。
どうやって英語を勉強するか?
研究成果を伝えるために英語力を鍛えます。よい研究成果が得られれば、それを誰かに伝えたくなるものです。日本人の数より、英語を理解できる人の数のほうが圧倒的に多いですので、英語で伝えることでより多くの人に伝えることができます。このあたりのモチベーションを大事にして、英語を学びましょう。
英語力をざっくり分けると、
- 読む力
- 書く力
- 聴く力
- 話す力
となります。これらを、研究者が一般的におこなう
- 論文を読む
- 論文を書く
- 研究のプレゼンを聞く
- 研究のプレゼンをする
に対応させて身につけると効果的です。
さらに、読む力と書く力はセットで、聴く力と話す力もセットでトレーニングするとより効率的です。人によっては、英語をたくさん読んで、英語をたくさん聞いて、英語を書く準備・英語を話す準備ができてから、英語で論文を書いたり英語でプレゼンしたりします、と考える人もいるでしょう。しかし、これでは効率が悪いです。英語を書く・話すというアウトプットを最初からすることで、アウトプットを前提にした英語のインプットにしてインプットの質を高める、これが効率的に英語を身につけるキーポイントになります。
読む力と書く力
伝えたい研究成果が得られたとしましょう。その成果を広く知らしめるために、英語論文を書きます。ただ、いきなりは書けませんよね。なので、他の研究者が書いた英語論文を読んで、論文の構成や英語的な表現を参考にするのです。あくまで構成や表現を参考にするのであって、他の人の論文をコピペするわけではありませんので注意してください。
英語論文を読んで、わからない単語・文法があれば自分で調べたり誰かに聞いたりします。参考になる表現があればメモしておきます。いくつかの英語論文を読んで、基本的な論文の構成を把握できたら、早速書き始めましょう。つたない英語でかまわないので、とりあえず書きましょう。伝えたいことがあるのに英語で表現するやり方が分からなかったら、自分の研究分野の他の論文に似た表現が書かれていることが多いので、それを参考にします。
一通り論文を書き終えたら、推敲を重ねます。それまでに読んだ英語論文が増えれば、それだけ単語力・表現力も上がります。それらを駆使して、よりよい英語に直していくのです。英語論文を読んで、書いて、の連続です。
何回も推敲して、他の研究者の英語論文に見劣りしないな、と自分なりに納得できたら、Google翻訳を使いましょう。自分で書いた英語を、日本語に翻訳するのです。その日本語の意味を理解できればOKですが、意味がわかりにくい文になっていたら、理解できる文になるまで英語の方を修正します。
このようにすることで、英語を読む力と書く力とが一緒に身につきます。
聴く力と話す力
ここでも、伝えたい研究成果が得られたことが前提です。研究成果を海外の学会で口頭発表・ポスター発表するようにしましょう。
最初にやるのは発音です。理由はあとで述べます。まずはじめに、正しい発音を身につけましょう。オススメはこちらの本です。
次に、口頭発表するための資料と原稿を作成します。発表する内容をすべて文字にして、原稿を覚えて発表するわけです。いろいろな英語表現を覚えることで、会話のときでも英語表現が出てきやすくなります。
覚えるときには、どんどん声に出しましょう!よい発音で声に出すことで、耳も一緒に鍛えられるわけです。一石二鳥。最初によい発音を身につけるのはこれが理由です。発音を身につけるときには正しい発音を聴くことになります。正しい発音を身につけたあとは、自分で話す英語で聴くトレーニングにもなります。話す力と聴く力を同時に鍛えます。
もちろん、学会発表当日は、たくさん発表を聞いて、理解できるように務め、発表後は質問したり、休憩中は発表者に積極的に話しかけるようにして、どんどん鍛えましょう!
まとめ
時間の有限感をもって研究者として英語を身につけることについて書きました。英語の論文を読む、英語で論文を書く、英語のプレゼンを聞く、英語でプレゼンをする、といったことは研究者として基本的に経験します。そこに+αしたり、意識を少し変えたり、アウトプットとインプットを組み合わせることでインプットの質を高めたりすることで、効率的に英語を学びましょう、ということです。
大事なことは、すばらしい研究成果を世に広めたい、というモチベーションです。研究成果がすばらしいものであればあるほど、英語を身につける駆動力 (ドライビングフォース) が大きくなるわけです。世に広めるために、英語で論文を書く・プレゼンをする、書く・話すためには読む・聴く必要もあるから英語の論文を読む・プレゼンを聴く、そして書く力と読む力、話す力と聴く力がそれぞれ一緒に向上する、となります。
最初にも述べましたが、今回はネイティブでない研究者として、どのように英語とつきあったらよいかを述べました。英語の通訳になりたい方や、趣味として英語を勉強している方はまた別のつきあい方があると思いますし、それらを否定することでは全くありません。
以上です。
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