[公開あり] 応用化学実験4機器実験4 プロセス制御の予習用テキストをどうするか問題

応用化学実験4機器実験4について、今年度の実験内容を練りながら、それに合わせて、来年度に向けて実験テキストを改定しています。

応用化学実験4機器実験4・化学情報実験Dの進め方(2018年度)
金子は応用化学科の学生実験の中で、 応用化学実験4機器実験4 化学情報実験Dを担当しています。どちらも3年生の実験です。それぞれ、2017年度における学生の実験の進め方は以下のとおりです。当日までに予習する↓説明①を聞く↓実験①をする↓説明...

その中で、プロセス制御の予習用テキストをどうするか、について考えています。予習用テキストとは、実験テキストが割りと難しめに作られていた中で、学生がプロセス制御の分野に入りやすいように,2017年度に作成したものです。

予習用テキストを読んだ学生からの感想として、

  • 分かりやすかった
  • 読みやすかった

という声があった一方で、

  • 金子先生が気持ちよさそうに書いているのが伝わった
  • 図書館で読んでいたら吹いた
  • ウケた

といった、あまりテキストの感想としては聞いたことのないものもあったのです。たしかに、文体として、一般的なテキストの文体と合わないため、そのまま実験テキストに載せるのもどうかな、といった感じです。

興味のある方は、下に載せますので読んでみてください。

=== ここから ===

応用化学実験4 機器実験4 課題3 完全混合型流体加熱プロセスの制御 予習用テキスト

応用化学科 金子弘昌

 

この予習用テキストは、皆さんを深淵なる制御の世界の入口へと案内してくれるだろう。

 

「制御」という言葉を聞いて何を想像するだろうか。制御よりも、英語の control (コントロール) のほうがよく耳にするかもしれない。自分の感情をコントロールする、後輩をうまくコントロールする、コントロールのいいピッチャー、金利をコントロールする など、どこかで聞いたことがあるだろう。制御とは、望みのとおりになりそうなモノを、何かすることで、望みどおりにすること、だ。

車の運転を例にして制御の説明を試みる。運転免許をもっていない人もいるかもしれないが、身近な人が車の運転をするのを見たことはあるだろう、と期待して話を先に進める。たとえば60 km/h が制限速度の道を走るとき、アクセルをうまく使って車の速度を60 km/h に「制御」する。車の速度の制御をするとき、大事なことは次の2つだ。

 

  1. 現在の車の速度がわかる
  2. どれくらいアクセルを踏めばどれくらい車の速度が変わるかがわかる

 

逆に、1. もしくは 2. が満たされていないとき、車の運転がどれだけ恐ろしいものになるのか想像するのは難しくないだろう。1. は車に搭載されている速度計がその役割を果たしてくれる。2. は教習場で車を運転するうちにわかるようになる。

ここで注目してほしいのは、車のメカニズム、つまりどのようにして車が走るのか、がわからなくても、車の速度の制御ができてしまうことだ。エンジン・トルク・タイヤなどの仕組み・詳細について全く知識がない人でも、教習場で訓練すれば車の速度の制御は簡単にできるようになる。

逆に、機械学科の学生で、車のメカニズムがパーフェクトに分かっている人なら、教習所での訓練なしに ぶっつけ本番で車の速度の制御ができるだろうか。きっとできるはずだ。ただ、私も車の専門家ではないので正確なところはわからないが、いつも車で通勤している文系のサラリーマンの方がうまく制御すると想像する。2. を理解するためには、空気抵抗・タイヤと道路との摩擦・エンジンやタイヤの劣化など、車のメカニズム以外で経験的にしか理解できない現象もあるのだから。

頭のなかに制御のイメージができただろうか。それでは、今回の実験で対象にするプロセスの話をしよう。2週間にわたって行うことは、水の温度を35℃に制御する、ということだ。

 

・・・なんだ そんなことか。

 

と考える人もいるかもしれない。しかし、温度計とガスコンロだけしかない状況で、自分で水の温度を35℃に上げ、その後34.9℃以上35.1℃以下に5分間 維持し続けられるだろうか。ほとんどの人はできないはずだ。そして、液体の温度制御は、分離プロセスや化学反応をともなうプロセスなど、多くの化学プロセスで実際に実施されている、なくてはならない制御である。たとえば、発熱反応の化学反応が温度上昇によって熱暴走しないように、適切に温度を制御しなければならない。化学と温度制御とは切っても切れない関係なのだ。

というわけで実験では、なるべく早く水温を35℃に上げ、その後も安定的に水温を35℃に維持することを目指そう。非常にベーシックな温度制御の実験ではあるが、今回の系で制御とは何たるかを学べば、それを多くの化学プロセス・化学の分野で応用できる。1を聞いて10を知る、だ。

今回はPID制御という制御方式を採用する。PID制御は、開発されてから60年以上たつにもかかわらず、いまだに制御の90%以上を占める優れものだ。もっとも、科学者・技術者がPID制御の理論・技術・実装を磨き続けなければ、その地位は確立できなかっただろう。PID制御の概要については別紙の「機器分析実験4課題3 2-2.pdf」を参照してほしい。もちろん、実験の前半において 0 から説明するので、今はわからなくても全く問題はない。

制御方式にかかわらず、制御で重要なことは変わらない。車の速度を制御するときに大事といった2つのことを思い出そう。それらを一般化すると、

 

  1. 現在の制御変数の値がわかる
  2. 操作変数と制御変数との間の関係がわかる

 

となる。車の速度制御のとき、制御変数は車の速度、操作変数はアクセルの踏み具合だ。そして今回の水温制御では、制御変数は水温、操作変数は加熱量である。今回は熱電対温度計によりリアルタイムに水温を測定できるため、1. を満たす。つまり、単純な引き算により、目標温度35℃との差がわかる。PID制御のキモは、この制御変数 (今回は水温) の目標値からの差から操作変数 (今回は加熱量) の値を決めることにある。そのためには、2. を満たさないといけない。どのように操作変数 (加熱量) と制御変数 (水温) との間の関係を求めればよいだろうか。

実は、車の速度制御の話の中に、重大なヒントが隠されている。どれくらいアクセルを踏めばどれくらい車の速度が変わるか知る方法として、

 

  1. 教習所で訓練する方法
  2. 車のメカニズムを学ぶ方法

 

の2つがあった。これらを一般化すると、

 

  1. 実験データを使う経験的な方法
  2. 理論的に攻める方法

 

となる。実際は A. と B. の2つを組み合わせたハイブリッドな方法もある。今回の実験では、1週目に A. の方法を用いて実際の系で PID 制御行い、2週目に B. の方法を学び、制御性能のさらなる向上を目指す。2つの方法の特徴や関係性を堪能してほしい。

最後に、テキストの内容について触れる。まず、テキストにおける「課題4 完全混合型流体加熱プロセスの制御」の「2 原理」の章は、思い切って読み飛ばしてしまおう。この予習用テキストおよび「機器分析実験4課題3 2-2.pdf」を読み、実験前半の説明を聴き、自分の頭で考えることが、その代わりとなる。

次に、テキストには1週目に用いる器具が示されていなかった。当日は下の器具を準備してほしい。

 

(省略)

 

実験をより面白くするため、実験内容を変更した。まず1週目「3-3 PID 制御実験 – オートチューニング法(AT法)」は実施しない。該当する部分に大きく「×」を書いてしまおう。その代わりに、PID制御における3つのパラメータの役割について、各自が仮説を立て、その仮説を検証する実験を追加する。「3-4 PID 制御実験 – 各班指定別の方法(Zn or CC or CHR 法)」では、それぞれの班において、PID制御の3つのパラメータの値と、それを用いたときの制御結果が出てくる。班の数だけ、異なる結果が出てくるわけである。自分の班の結果だけでなく、他の班の結果も見ながら、3つのパラメータがどのように制御性能に寄与しているか考えよう。他の人とあーだ こーだ言い合いながら、大いに議論を楽しんでほしい。その仮説に基づいてPID制御の3つのパラメータを変えて、再度制御する。つまり仮説を検証するわけである。その結果を踏まえて考察を深めてほしい。

2週目の「3-5 計算シミュレーション」では、実際の温度変化とシミュレーションによる温度変化の差異がどうして生じるかを考え、仮説を立てよう。その仮説を踏まえて、理論式を修正し、エクセルの中身を書き換える。書き換えた後に、実際の温度変化に近づいたか検証しよう。ここでも仮説&検証をするわけだ。その後、PID制御の3つのパラメータを変化させて、より制御性能の良いパラメータの組を班ごとに探索しよう。なお、話はそれるが、仮説&検証を繰り返すことは、科学者・研究者として非常に重要なプロセスである。今回の実験でも その一端に触れてほしい。

さて、無事に制御の世界への入口にたどり着けただろうか。全員がそろっていることを祈る。それでは、整然さと泥臭さをあわせもった制御の世界への扉を開けるとしよう。TAの大野氏と小林氏がお待ちかねだ。

=== ここまで ===

といった感じです。

今回、実験テキストを大改訂する中で、もちろんプロセス制御の導入部分から作り込みたいと思います。その部分に組み込むか、思い切ってなきものにして別の形で作り直すか、考えています。どちらにせよ、実験用テキストのみで

予習 → 実験準備 → 実験

が完結するようにしたいです。

以上です。

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