分子設計や材料設計やプロセス設計において、分子記述子や合成条件や実験条件やプロセス条件などの説明変数 x と物性や活性などの目的変数 y との間でモデル y = f(x) を構築し、そのモデルを用いて新たな分子や材料の化学構造や合成方法やプロセスを設計することが行われます。その中で、分子設計・材料設計・プロセス設計の現場において、モデルの予測精度を向上させようと、いろいろと試行錯誤します。y を的確に説明できる x を設計しようと試みたり、x の中から y と関係のある x のみ選択しようとしたり、モデルの構築方法を工夫したりします。もちろん、モデルを用いて新たな分子や合成条件・実験条件やプロセスを設計する、すなわちモデルを逆解析するときに、モデルの予測精度は重要です。ただ、モデルの予測精度を向上させることが目的ではなく、あくまで有望な分子・材料・プロセスを設計することが目的であることに注意しましょう。
パレートの法則もしくは80:20の法則としていわれるように、2割の努力で8割のモデルの予測精度を達成でき、残りの2割分のモデルの予測精度の向上を達成するためには、8割の努力が必要と考えられます。その8割の努力を、モデルの予測精度の向上のためにするのか、それとも別のこと、例えばモデルの逆解析をしたり、逆解析の結果として設計された新たな分子や合成条件やプロセスで実験したりといった、次のステップに進むためにするのか、ということです。
もちろん、ケモインフォマティクス・マテリアルズケモインフォマティクス・プロセスケモインフォマティクスの研究者としては、8割の努力をして2割のモデルの予測精度を向上させるような研究テーマもあると思います。しかし一方で、分子設計・材料設計・プロセス設計の現場では、いくらモデルの予測精度が上がっても、結果的に所望の物性や活性の値をもつ分子や材料やプロセスを設計できなければ、まったく意味がありません。モデルの予測精度はほどほどでも、実験やシミュレーションを繰り返すことで、材料の特性が向上することは大いにあります。
分子設計・材料設計・プロセス設計の現場においては、その設計における目的を再確認した上で、残された時間をふまえながら、今やるべき解析を考えるとよいと思います。
以上です。
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