三菱ケミカルと金子研における共同研究の成果の論文が Results in Engineering に掲載されましたので、ご紹介します。タイトルは
Cloud point prediction model for polyvinyl alcohol production plants considering process dynamics
です。これは共同研究として三菱ケミカルの方々と一緒に研究した成果であり、修士一年の大熊彩水さんが学部生のときに取り組んだ研究の成果です。
ポリビニルアルコール (PolyVinyl Alcohol, PVA) 製造プラントにおいて、製品品質の一つとして曇点を管理しています。曇点とは PVA と水の水素結合が切れ、水溶解度が急激に低下してしまう温度のことです。プラントの出口付近で定期的にサンプリングを行い、曇点を分析しています。曇点が管理値を下回ると PVA の用途である重合用分散剤としての性能が低下するため、製品として出荷することができません。曇点が管理値を逸脱しないように曇点をリアルタイムでモニタリングする必要がありますが、曇点は頻繫に分析することができません。
測定が困難な変数をオンラインで推定する手法にソフトセンサーがあります。測定が容易な温度や圧力などを説明変数 x 、測定が困難な曇点を目的変数 y として回帰モデル y = f(x) を構築します。新たに測定された x をソフトセンサーに入力することで y を連続的に推定できます。ソフトセンサーにより得られた推定値を実測値の代替としてプロセス管理を行うことで、製品品質の安定化につながります。
曇点を予測する一般的なソフトセンサーを実際に構築してみたところ、曇点が低い範囲で推定値が実測値よりも高くなってしまいました。一般的なソフトセンサーでは、曇点の下限値を上回ると予測された製品が、実際には下限値を下回っており品質が悪い状態で出荷されることになってしまいます。そこで本研究では、曇点が低い範囲で高精度に予測できるソフトセンサーを開発することを目的としました。
ソフトセンサーの予測精度が低い理由として二つの問題点が考えられます。
一つ目の問題は曇点が低い範囲でのサンプル数が少ないため安定的なソフトセンサーの構築が難しいことです。この問題に対応するため、転移学習 (Transfer Learning, TL) に着目し、曇点と相関が高い物性が測定された別のデータセットを活用して、TL を行います。
二つ目の問題は PVA 製造プラントにプロセスの時間遅れがあることです。プラントではプロセス変数の測定地点と y の測定地点が離れており、時系列データにおいて x と y の間に時間遅れが存在すします。プロセス変数は時間遅れを伴って y に影響を与えるため、時間遅れの考慮によってモデルの予測精度が変化します。時間遅れはプロセス変数ごとに異なるため、最適な一つの時間遅れを選択することは困難です。y に影響度の大きいプロセス変数とプロセス変数の y に対する時間遅れ幅を同時に選択する手法として Genetic Algorithm-based process Variables and Dynamics Selection (GAVDS) を活用します。
本研究では、プラントの動特性および別の物性を考慮して予測精度の高いソフトセンサーを構築するため、GAVDS と TL、回帰分析手法の一つであるガウス過程回帰 (Gaussian Process Regression, GPR) を組み合わせたソフトセンサーを開発した。GAVDS と GPR を組み合わせた手法を GAVDSGPR、TL と GPR を組み合わせた手法を TLGPR、GAVDS と TL と GPR を組み合わせた手法を TLGAVDSGPR と呼びます。TLGAVDSGPR によって適切なプロセス変数および時間遅れ幅を選択し、他の物性のデータセットを考慮したモデルを構築することで予測精度を向上させることができました。
興味のある方は、ぜひ論文をご覧いただければと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
以上です。
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