2024年度の卒業研究発表会

2025年1月31日(金)に、卒業研究発表会があり、4年生7名が研究発表をしました。皆さん堂々と発表し、質疑応答も対応して、素晴らしい発表会でした。

ここでは、何人かの学生の発表の概要を説明します。もし、いずれかに興味がありましたらご連絡ください!

 

機械学習モデルを用いた金の分離回収に有用な高い金抽出能力と低い水溶解度を持つ抽出溶媒の設計

電子廃棄物は金の再利用のための資源として注目されており、より効率的な金の回収方法が模索されている。金の溶媒抽出では従来、抽出能力の高いジブチルカルビトール (DBC) が用いられてきたが、水への溶解度が 3 g/dm3 であり操作の度に目減りしてしまうという欠点があった。そこで本研究は高い金抽出能力と低い水溶解度を併せ持った溶媒を開発することを目的とした。様々な化合物の金抽出率、水溶解度のデータを用いて化学構造の分子記述子 x から抽出率・水溶解度 y を予測するモデル y=f(x) をそれぞれ構築した。トレーニングデータとテストデータの分割をサンプルの数だけ繰り返すダブルクロスバリデーションを用いてモデルの予測精度を検証したところ、実測値 vs. 予測値プロットにおいて、サンプルが対角線付近に固まっていることから高い予測精度をもつモデルを構築したことを確認した。さらに、構築したモデルの逆解析によって高い抽出能力と低い水溶解度を併せ持つ溶媒を設計した。

 

機械学習による共結晶予測モデルの構築およびモデルを用いた共晶剤の設計

現在開発されている多くの医薬品有効成分 (Active Pharmaceutical Ingredient, API) は溶解性が低く、生体利用率の低下の原因となっている。溶解性を改善し、生体利用率を向上させる手段として、APIと共晶剤の共結晶化が有効であるが、APIに対する共晶剤の設計には、膨大な時間とコストがかかってしまう。本研究では、任意のAPIに対して効率的に共晶剤を設計することを目的とし、分子の構造や性質を数値の形式で表現したフィンガープリントおよび共結晶形成に重要である分子間相互作用を表現する記述子から共結晶の形成を予測する機械学習モデルを開発した。フィンガープリントとしてECFP6を、分子間相互作用を表現する記述子としてCOSMO-RS法に基づいて計算されるσ-profileおよびハンセン溶解度パラメータを用いた。さらに、これらの記述子では表現されない2つの分子の幾何学的相補性に関する記述子も用いた。これらの記述子は、単独でも共晶剤のスクリーニング法として有効であることが知られているが、本研究ではこれらを組み合わせた記述子も機械学習モデルの説明変数として用いた。それぞれの記述子を説明変数として用いた際にダブルクロスバリデーションでモデルの予測精度を検証したところ、記述子を組み合わせて使用した際に正解率・F値ともに最も高く、予測精度の高いモデルを構築できることを確認した。構築した予測モデルを逆解析することで、任意のAPIに対する共晶剤の設計を行った。

 

新規金属元素への汎用性を考慮した電極触媒でのCO2還元における吸着エネルギー予測モデルの開発

電極触媒による二酸化炭素還元は、環境面やエネルギー面で大きな恩恵をもたらすものの、活性の低さが問題となっている。また高活性触媒の探索には時間と費用がかかるため大規模な探索が困難である。本研究では低コストで触媒を効率的に探索するため、合金触媒表面の元素情報および反応中間体の吸着状態(x)を入力とし、CO₂還元における反応中間体の吸着エネルギー(y)を予測する機械学習モデル y=f(x) を開発することを目的とした。新規金属元素への汎用性向上のため、金属元素のグループごとにデータを分割し、各グループを検証用データ、残りを訓練用データとしてモデルを構築し、すべての金属グループに対して繰り返し実施する element grouping iterative splitting validationを提案し、予測性能を検証した。DFT計算されたCO吸着エネルギーの値と機械学習モデルの推定値の間の散布図から、新規金属元素に対する推定誤差を確認した。構築したモデルにより、データセットにない金属を含む合金触媒の吸着エネルギーを低コストかつ高精度に予測することが可能となった。

 

機械学習によるガラスセラミックス製品の光学特性予測および製造条件の最適化

ガラスセラミックスは審美性に優れた材料であり、ガラスインゴットに対して所定の熱処理を施すことにより結晶を成長させて製造している。製品の光学特性は製造過程における結晶化温度に依存するため、ガラスインゴットを適切な温度条件下で結晶成長させる必要がある。しかし、従来の製造プロセスでは目標とする光学特性を得るための結晶化温度の設定が経験や試行錯誤によることが多く、製造の効率化を図るうえでボトルネックとなっていた。本研究ではガラスセラミックスの製造条件と、光学特性の指標のひとつとして測色値との間での機械学習によるモデル化およびモデルの逆解析によるガラスセラミックスの色調の製造条件の最適化を目的とした。製造条件を説明変数とし、測色値としてCIE色座標の黒背景と白背景でのL*a*b*値を目的変数とした。トレーニングデータによるモデル構築とテストデータによる検証を繰り返すダブルクロスバリデーションによりモデルの予測精度を検証し、モデルごとに説明変数間の相関関係を考慮して安定的に変数重要度を計算できる Cross-Validated Permutation Feature Importance (CVPFI) により解釈した。6つの目的変数のL*値の実測値と予測値のプロットを確認したところ、サンプルが対角線付近に固まっており精度良く予測できたことを確認した。さらに、CVPFI が上位の説明変数にガラスインゴット結晶化に関する3変数が含まれ、光学特性に与える最も大きな要因であることを確認した。さらに、これらの3変数を仮想的に変更してモデルの逆解析を行うことで、色調の目標値に達する製造条件の候補を提案した。

 

ポリビニルアルコール製造プラントにおける製品粘度予測モデルの開発

ポリビニルアルコールはその使い勝手の良さから、多岐にわたって利用されている有用な材料である。ポリビニルアルコールの製造プラントでは、製品の重合度を規格内に保って運転することが求められる。対象としたプラントでは、重合度と相関する製品粘度が運転の指標とされる。製品粘度は原料やプロセス変数によって変動しやすく、一定に保つことが難しい。また、重合終了から粘度測定までに時間がかかるため、粘度の安定化に対する対応が遅れてしまう。本研究では重合終了時の粘度を予測するソフトセンサーモデルを機械学習により開発した。モデル構築において、製品粘度を目的変数とし、原料重量、不純物量、各種プロセス変数の終点値および時系列データを説明変数とした。時系列データについては、反応時間内の累積値や変化量などの多様な特徴量を抽出した。トレーニングデータとテストデータの分割を繰り返し行うダブルクロスバリデーションを用いてモデルの予測性能を評価し、予測性能の高いモデルを選択した。製品粘度の実測値と選択されたモデルによる予測値との間の散布図を確認したところ、製品粘度の予測誤差が小さく、高い精度で予測できるモデルを構築できた。このモデルを用いることで、迅速かつ的確に製品粘度を予測することが可能となった。モデルにおける説明変数の重要度を検討することで製品粘度への影響の大きい変数を議論した。さらに、目標の製品粘度を達成するようなプロセス変数の設計を行った。

 

以上です。

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