機械学習によりバイオマテリアルの材料特性と骨形成率を予測するモデルを構築し、直接的逆解析により新規材料の設計をしました! [相澤研&金子研の共同研究論文]

相澤研と金子研における共同研究の成果の論文が Industrial & Engineering Chemistry Research に掲載されましたので、ご紹介します。タイトルは

 

Machine Learning Model for Predicting the Material Properties and Bone Formation Rate and Direct Inverse Analysis of the Model for New Synthesis Conditions of Bioceramics

 

です。これは共同研究として明治大学の相澤先生の研究室の方々と一緒に研究した成果であり、修士卒の本島康平さんが四年生~修士1年生のときに取り組んだ研究の成果です。

日本では高齢者の人口が増加しており、骨粗鬆症患者は高齢者になるほど増加することから、今後日本では骨粗鬆症患者は増加すると考えられ、人工骨の開発が進められています。従来の人工骨の開発では、研究者の知見や経験等に基づいて出発物、加熱温度、多孔体を作るために必要なカーボンビーズの量などの合成条件を決定し、材料を合成します。合成した材料の気孔率、圧縮強度、X線回折 (XRD) プロファイル、フーリエ変換赤外分光 (FT-IR) スペクトルなどの材料特性を測定し、目標値に達していれば動物実験の対象とし、埋入期間などの動物実験条件を決定し、動物実験を行います。埋入期間が経過したら骨形成率などの動物実験結果を測定します。材料特性、動物実験結果が目標値に達しなかった場合、実験条件の検討へと戻り、再度材料合成を行います。多くの開発コスト・時間がかかります。

従来の人工骨開発では、現場で要求される材料特性や生体内反応が使用される部位や臨床応用の適用によって多岐にわたるため、動物実験に基づく実験結果に立脚して開発が進められてきました。ただ動物実験は倫理的に問題視されており、1959年には動物実験に対する 3Rs (Refinement, Replacement, Reduction) が掲げられ、削減する傾向にあります。さらに動物実験は一実験に数ヶ月必要であり、目標値に達せず複数回行うとなると開発期間が長期化します。そのため代替動物実験の模索が行われています。

そこで本研究の目的を、動物実験を行わない機械学習法をバイオマテリアルの材料設計に取り入れ、実験条件から材料特性、骨形成率を予測すること、および限定された動物実験でも様々な骨形成率を示す人工骨の実験条件を設計することとしました。機械学習を用いた材料設計では過去のデータより実験条件を特徴量 X、動物実験の結果として骨形成率を対象にして Y とし、モデル Y = f(X) を構築します。このモデルを用いることで、動物実験なしに骨形成率を予測できます。さらに、所望の骨形成率を実現するための実験条件を探索可能になります。探索することで得られた実験条件を基に材料を合成し、材料特性、骨形成率を測定すれば、所望の物性および骨形成率を達成できると期待されます。材料特性、骨形成率が目標値に達しなかった場合は、データを更新して再度機械学習を行うことでモデルを再構築し、次の実験条件を探索します。

本研究では実験条件から骨形成率を二段階で予測するモデルを構築します。まず合成条件を特徴量 X1、材料特性を目的変数 Y1 としてモデル1 (Y1 = f(X1)) を構築します。次に材料特性 Y1 と動物実験条件 X2 を特徴量、骨形成率を目的変数 Y2 としてモデル2 (Y2 = f(X2, Y1)) を構築します。モデル1では人工骨の合成、材料特性の評価までを行い、モデル2では合成した人工骨を用いた動物実験を行います。合成条件は人工骨の材料特性に関係し、気孔率、圧縮強度などは合成条件を基に決定されます。マグネシウムイオンなどの置換においても出発物の量などにより FT-IR スペクトル、XRD プロファイルによって表現されます。つまり合成条件の情報は材料特性にすべて含まれているため、モデル 2 において特徴量に X1 がなくても、Y1 により表現されています。そのため、本研究ではモデル2の特徴量を X2, Y1 とし、骨形成率の予測を行います。

モデルを2つに分けて構築することで、モデル1を構築するためのデータセットには動物実験まで行っていない人工骨材料のサンプルを追加でき、モデル2を構築するためのデータセットには例えば市販で購入したサンプルや論文データなど合成条件がわからない人工骨材料のサンプルを追加できます。各データセットにおけるサンプル数が異なるときにもすべてのサンプルを活用して骨形成率予測モデルを構築できます。

さらに、モデル1およびモデル2を Gaussian Mixture Regression (GMR) で構築することで、それぞれのモデルの直接的逆解析をします。すなわち、骨形成率 Y2 の目標値をモデル2に入力して X2 および Y1 を出力し、ここで出力された Y1 をモデル1に入力して X1 を出力します。これにより、骨形成率 Y2 の目標値を達成する材料を合成する実験条件 X1 および動物実験条件 X2 を提案可能です。

さらに、材料特性と骨形成率の関係、そして動物実験条件と材料特性と骨形成率の関係を可視化するために、線形モデルおよびGMRモデルに基づいて変数の関係性を可視化しました。これにより各特徴量が骨形成率に与える影響を検討できるようになります。

興味のある方は、ぜひ論文をご覧いただければと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

 

以上です。

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