世の中には、機能的なモノばかりではなく、機能的ではないけれども意味があるモノもあります。例えば、ろうそくです。昔は、空間を明るくするために使われていましたが、今は電球や蛍光灯がありますので、空間を明るくすることに関しては機能的ではありません。ただ、世の中からろうそくがなくなることはなく、ろうそくの火やその光が好きな人にとっては、なくてはならないモノです。その人にとっては、ろうそくは意味があるモノです。
自動車も年々高機能化していますし、自動運転車も検討されていますが、機能的には劣る昔の車 (クラシックカー) が好きで乗る人もいます。その人にとっては意味があるわけです。
データ解析・機械学習の分野でも、年々新たな手法が開発されているため、ひと昔前の手法に対して上位互換性をもつ手法もあります。例えば最小二乗法による線形重回帰分析 (Multiple Linear Regression, MLR) に対する Partial Least Squares Regression (PLS), リッジ回帰(Ridge Regression, RR), Least Absolute Shrinkage and Selection Operator (LASSO), Elastic Net (EN) です。
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PLS, RR, LASSO, EN それぞれ、線形の回帰モデルを柔軟に設計できますし、ハイパーパラメータの値を調整することで MLR にもなります (PLS の成分数を最大値にしたり、RR, LASSO, EN の λ を 0 にしたりすると MLR と同じです)。ハイパーパラメータの値によって柔軟にモデルを設計できるわけです。
また、自己組織化マップ (Self-Organizing Map, SOM) に対して Generative Topographic Mapping (GTM) は上位互換性があります。
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C. M. Bishop 先生が指摘しているように、SOM のいくつかの問題点を解決する形で、GTM が開発されました。そういう意味では、Y を含めた SOM である Counter Propagation Neural Network に対して Generative Topographic Mapping Regression (GTMR) も上位互換性をもつといえます。
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k最近傍法 (k-Nearest Neighbor, k-NN) に対するサポートベクターマシン (Support Vector Machine, SVM) は微妙なところです。
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k-NN の k の値は設定しやすい一方で、SVM のハイパーパラメータは適切に設定できないと精度が下がってしまいます。また、k-NN ではサンプルの更新がしやすいです。完全な上位互換とはいえないかと思います。
では、私が例えば MLR をもう使わないか、PLS, RR, LASSO, EN にすべて置き換えるか、というと、そうではありません。MLR は、目的変数 Y の誤差が小さくなるように回帰モデルを構築する、といった原理原則を教えるのにとても有効です。私にとっては意味があるものです。また SOM も、データの可視化の原理原則である、実際の空間において近いサンプルが可視化した後の空間・平面でも近い必要があり、またその逆も満たす必要があることを教えるのに便利です。k-NN も Y の値が似ていたり、Y のカテゴリーが同じだったりするサンプル同士は、X の値も似ていること、またその逆のことも教えやすいです。
他の例でいえば、例えば PLS の 1 成分モデルでしょうか。1 成分しか用いませんので、多くの場合で推定性能は低く、機能性があるとはいえません。しかし、多重共線性のため線形回帰モデルの (標準) 回帰係数を説明変数 X の Y に対する寄与度とすることは危険ですが、PLS の 1 成分モデルであれば、もちろんその推定精度の範囲内において、回帰係数を X の Y への寄与度とすることができます。線形回帰分析の意味を変える手法といえるでしょう。
データ解析・機械学習の手法の中には、機能的な手法もあれば意味のある手法もあります (機能的でない手法にすべて意味があるというわけではありません)。色々な手法に触れて、一度は試してみるのがよいかもしれません。
以上です。
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