材料開発の限界を検討するための機械学習からの情報

分子設計・材料設計・プロセス設計において、分子や合成条件・製造条件やプロセス条件の特徴量 x と材料の物性や活性 y との間で機械学習により数理モデル y = f(x) を構築し、モデルを用いて次の分子や合成条件・製造条件やプロセス条件を設計することが行われています。ベイズ最適化では、モデル構築にガウス過程回帰を用いて、y の予測値だけでなくその分散も考慮して設計をします。

ベイズ最適化で期待できること
材料の活性・物性・特性は、化学構造だけで変化するものではなく、材料の作り方、つまり実験条件や製造条件によっても変化します。例えば高分子設計において、単量体 (モノマー) の化学構造だけでなく、そのモノマーの種類・組成比や、反応温度や反応時間...
[無料公開] 「Pythonで学ぶ実験計画法入門 ベイズ最適化によるデータ解析」 の “まえがき”、目次の詳細、第1・2章
2021 年 6 月 3 日に、金子弘昌著の「Pythonで学ぶ実験計画法入門 ベイズ最適化によるデータ解析」が出版されました。 講談社: Amazon: Amazon(Kindle): === 出版して約2年経過した 2023 年 4 月...

 

ベイズ最適化は外挿を探索することが得意です。

守りの AD 攻めの BO (AD: モデルの適用範囲、BO: ベイズ最適化)
分子設計でも材料設計でもプロセス設計でも、説明変数 X と目的変数 Y のそろったデータセットを準備して、X と Y の間でモデル Y = f(X) を構築します。構築したモデルを用いて、Y が目標の値となるような X の候補を設計します。...

 

直接的逆解析法では y の値から x の値を直接的に予測できます。

どうしてGMRやGTMRといったモデルの直接的逆解析法は良好な結果を生み出すのか?
回帰モデルを直接的に逆解析ができる、すなわち説明変数 X から目的変数 Y (Y が複数でもOK!) を直接的に推定できる手法である Gaussian Mixture Regression (GMR) や Generative Topogr...

 

このように機械学習を使って分子や合成条件・製造条件やプロセス条件を設計していると、そもそも今の分子や合成条件・製造条件やプロセス条件の探索範囲の中に、物性や活性の目標値を達成するものが存在するかどうか、検討したいといえます。ただ、機械学習だけで材料開発の限界を判断することは難しいです。基本的には機械学習の結果を用いて人が中止・続行の判断をする、という話はこちらに書いたとおりです。

材料設計の限界(モデルの逆解析の限界)は分かるのか?
材料設計において、材料の物性 Y と実験条件 X との間で回帰モデル Y = f(X) を構築し、そのモデルに基づいて Y が望ましい値であったり、目標の値であったり、目標の範囲に入ったりするような X の値の提案を行います。いわゆるモデル...

 

今回は、その限界を人が判断するために参考になる情報についてお伝えします。

一つは、ベイズ最適化や直接的逆解析などで提案された候補が、合成条件やプロセス条件の上限や下限になっているかどうかです。例えば合成条件における温度のように、装置によって高温にできる限界があります。そのため x に上限や下限があることが多いです。もちろん、例えばベイズ最適化では外挿を探索することになりますので、x の上限や下限が提案されることもあります。ただ提案された結果として、上限や下限に固定されている合成条件やプロセス条件が多いと、より外側 (上限や下限を超えたところ) を探索したいが上限や下限があるため仕方なくその値を提案している可能性もあり、今の装置の制約条件の中では物性や活性の目標値を達成する材料を開発するのは難しいかもしれません。

もう一つは、ベイズ最適化や直接的逆解析であっても、既存の合成条件やプロセス条件と近いような値が提案されるかどうかです。基本的にベイズ最適化では、特に物性や活性の目標が遠いときには外挿が探索される方向になりますが、それでも既存のデータの近くしか探索されない場合は、外挿を探索しても目標達成する可能性が低くなってしまうことを意味するため、目標達成は難しいかもしれません。

以上の2つの情報は継続を中止する判断材料として使えますが、もちろん達成する可能性がゼロというわけではありません。最終的には人が判断することになりますので、ご注意いただければと思います。

 

以上です。

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