自分で研究を進める中で、ある程度の研究成果が出てくると、「こんな研究成果をあげたぜ!」と、他の人にも伝えたくなるものです。逆に、他の研究者がどんな研究成果をだしているのかも気になります。
研究成果を公表する方法として、論文発表と学会発表とがあります。今回は学会発表に焦点をしぼります。
学会とは、研究者が1つの場に集まって、お互いに研究成果を発表しあったり、その内容について議論しあったりする会です。研究会・討論会・講演会・シンポジウムなどの呼び名があり、規模などの違いはあるようですが、だいたいどれも同じような意味です。大学の講義では、教員が壇上から授業をして学生が話を聞くというスタイルが一般的です。一方 学会では、ある研究者が壇上から研究成果を発表して、他の研究者がその話を聞き、内容について質問・コメントして、壇上の研究者が回答する、といったことを、壇上の研究者が代わりながら繰り返します。このような発表形式は、口頭発表といわれます。
もう一つの発表形式に、ポスター発表があります。A0サイズくらいのポスターを1人一枚作り、壁やつい立てなどに貼り、ポスターの前で研究内容について議論するスタイルです。
今回はこのような学会発表をする価値について考えてみました。それは以下の10個です。
- 研究成果を多くの関係者に伝えることができる
- 研究内容を整理できる
- プレゼンテーションの練習になる
- 研究に対するモチベーションがあがる
- 他の研究者と議論できる
- 情報収集ができる
- 友人ができる
- 研究者と交流できる
- 観光できる
- 業績になる
それぞれ順番に説明します。
1. 研究成果を多くの関係者に伝えることができる
それぞれの学会にはテーマがあり、1つの学会でも会場ごとに より詳細なテーマがあります。たとえば、”化学工学” をテーマにした学会において、ある会場では ”分離” がテーマだったり、”環境” をテーマにした会場があったり、”シミュレーション” がテーマの会場があったりします。つまり、そのテーマについて研究発表をするとき、自分と同じような研究テーマの研究者たちが1つの会場に集まっているわけです。
研究テーマが同じような人たちなので、そこで話される研究内容も理解しやすく、それぞれが発表した研究成果について他の人もよくわかってもらえます。同じ研究分野で、同じような研究目的をもった方々に、効率的に研究成果を報告できるわけです。
2. 研究内容を整理できる
普段、大学では研究室のゼミなどで、各自、定期的に研究の進捗について報告し、それをふまえて研究室内で議論していると思います。研究室の人たちは研究内容を定期的に聞いていますので、多少説明を省いても理解してもらえます。むしろ、一回のゼミあたり たくさんの人たちが研究の進捗を発表をするとき、発表内容のプレゼンを簡略化することが求められたりするかもしれません。
一方、学会で ある研究成果を発表することを考えましょう。学会で発表するときは、もちろん聴いている人たちの研究テーマも発表者と近いところにありますが、その研究成果を聴くのは はじめての人が多いわけです。そのような方々でも理解できるよう、研究発表を工夫する必要があります。その工夫の過程で、研究内容、つまり研究の背景・対象とする問題点・目的・方針・実験結果など、を整理することになります。
このように、一度立ち止まって、自分の研究について見直す よい機会になるわけです。見直す中で、別の研究方針を思いついたり、別の研究テーマを考えついたりするかもしれません。
3. プレゼンテーションの練習になる
学会では、各自の発表時間や質疑応答の時間が決まっています。口頭発表では、たとえば発表時間が15分、その後の5分が質疑応答、といった具合です。また上の 2. で述べたように、はじめて研究内容を聴く人でも内容が分かるような発表をしなければなりません。
学会で発表することは、限られた時間の中で分かりやすい発表をする よい練習の機会になります。研究室の中で、学会発表の練習をしたり、アドバイスをもらったりしながら、プレゼンテーションのためのスライドを作り込んだり、発表内容を整理させたりします。この過程は、プレゼンテーションの上達になるだけでなく、次のプレゼンもやりやすくなります。
ポスター発表では、発表というより内容についての議論がメインですので、なるべく短時間、たとえば 3分、でポスター前に来てくれた方に内容を説明する必要があります。内容の説明や議論を繰り返すことで、説明の仕方が洗練されたり、相手の質問に的確に答えるトレーニングになったりします。
また、英語で発表するときには、英語の練習のよい機会にもなります。
4. 研究に対するモチベーションがあがる
研究を始めてから ある程度時間が経ったとき、いつもは実験にあけくれていても、学会発表があって上で述べたように研究の背景・目的などを整理するときに、研究の重要性を再確認する人もいます。
そして、「自分は大事な研究をしているんだ!」 と考えており、研究室内で評価・関心をもらっていても、「本当に重要な研究なのだろうか?」と考えるときもあったり、客観的な視点で見てほしくなったりすることもあります。学会で発表したときに、「よい研究ですね」、「新しい方針ですね」、「すばらしい実験結果ですね」、といったコメントをいただけると、うれしいものです。
また、「学会で発表する日までに、発表できる研究成果をなるべく増やすぞ!」と、気合いを入れなおす人もいます。
学会発表が1つのきっかけになって、研究のモチベーションがあがるのです。
5. 他の研究者と議論できる
研究室内のゼミで各自の研究内容について議論するとき、もちろん近い研究テーマを扱うスペシャリストの集団ですので、深い議論ができると思いますが、一年を通して研究室のメンバーはほとんど変わりませんので、新鮮味にかけるときもあります。学会で、自分の研究内容について研究室外の研究者と議論することで、新しい視点に気付かされたり、時に批判的な視点で見られ指摘されることで、研究のさらなる発展につながったりします。
また逆に、他の研究者の、新しい研究発表について議論するのも楽しいものです。
6. 情報収集ができる
学会は、いろいろな研究者がそれぞれの最新の研究成果を発表する場です。たくさんの情報を収集することができます。研究内容だけでなく、研究に対する考え方、実験のやり方、結果のまとめかたなど、参考になることも多いです。
7. 友人ができる
学会では、休憩時間や懇親会の場を活用して、ぜひ友人を作りましょう!
同じ研究分野なので共通する話題も多いです。わたしのように大学の研究者として進む人同士では長い付き合いになることもあります。実際、学会でできた友人の方々には、これまでいろいろな場面で助けていただいたことがあります (わたしも何らかの助けになっていればうれしいです)。
せっかく学会に参加するわけですので、知り合いをつくっておきましょう。
8. 研究者と交流できる
「友人ができる」に近いといえば近いのですが、学会では研究者同士で顔を合わせた密な交流ができます。共同研究のきっかけになったり、また新たな学会を開催する話になったりと、次の仕事の話に発展することもしばしばです。
9. 観光できる
これは副産物的なものですが、24時間ずっと学会の会場にいるわけではありませんので、学会が始まる前や終わった後に、ご当地グルメを食べたり、会場に近くの観光地に足を運んだりすることができます。
10. 業績になる
「学会で発表しました!」 ということは、1つの研究業績です。就職活動のとき、履歴書や業績書などに行った学会発表について書くことができます。
以上です。
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