低分子有機化合物の分子構造・化学構造の生成の方針・分類

分子設計・材料設計・プロセス設計・プロセス管理において、分子記述子・実験条件・合成条件・製造条件・評価条件・プロセス条件・プロセス変数などの特徴量 x と分子・材料の物性・活性・特性や製品の品質などの目的変数 y との間で数理モデル y = f(x) を構築し、構築したモデルに x の値を入力して y の値を予測したり、y が目標値となる x の値を設計したりします。

低分子有機化合物を対象にした分子構造・化学構造の設計方針と分類について説明します。低分子有機化合物を対象にした分子設計では、y が目標値を持ちうる化学構造を設計することが目的になります。そのために、何らかの方法で化学構造を生成する必要があります。

化学構造を生成する方法は大きく分けて、

 

①化学構造を多数生成して、その中から良好な化学構造を選ぶ方法

②良好な化学構造のみを優先して生成する方法

 

の二つに分類されます。

 

①化学構造を多数生成して、その中から良好な化学構造を選ぶ方法

厳密には生成ではありませんが、一つに、既存のデータベースを利用して、そこに含まれる多くの化学構造を準備する方法があります。この方法は、化学構造を自ら生成する必要がないため、労力が少なくて済みます。さらに、実際の化合物データベースを使用すれば、それらの化学構造はすでに合成可能であることが確認されていますし、試薬データベースを使用すれば、商業的に入手可能な化学構造を選べます。ただし、すでに知られている化学構造に限られ、新規構造は得られないというデメリットもあります。

もし既存の化合物やデータベースで十分な設計ができなかった場合、化学反応に基づいて新たな化学構造を生成する方法が考えられます。出発物質として既存の化合物を用い、さまざまな化学反応を適用して新しい化学構造を生成できます。化学反応の情報があるため、合成可能性も高い一方で、既存の化学構造と類似した構造が生成されやすく、全く新しい化学構造もしくは人の想像を超えるような化学構造は生成されにくいといったデメリットもあります。

人の想像を超える新規な化学構造を生成したい場合は、網羅的に化学構造を生成する方法があります。究極的には、化学構造になりうるすべての原子の組み合わせで化学構造を生成することで、全ての化学構造を生成できます。ただし、現実的に安定に存在可能かどうかや合成可能かどうかは不明です。また、原子の数が多くなると組み合わせ爆発が起こるため、分子の大きさに制限が生じます。

分子の大きさを大きくするためには、原子単位ではなく、部分構造・フラグメント単位で “網羅的” に化学構造を生成することになります。もちろん、正確には網羅的ではありませんが、フラグメントを大きくすることで大きな化学構造まで生成することが可能です。ただ、そのフラグメントを持つという制限があるため、生成される構造には漏れが生じてしまいます。さらに、この方法でも分子の安定性や合成可能性については考慮されていませんので、別途評価することが必要になります。

 

②良好な化学構造のみを優先して生成する方法

y の目標値を達成する化学構造のみ、もしくはそのような化学構造を優先的に生成する方法です。1つの方法は、原子を組み立てながら、目標となる化学構造まで構造を成長させるアプローチです。結果的に生成された分子は、もちろんモデルが正しければ、y の値を達成することになります。しかし、原子単位で組み立てているため、原理的にあまり大きな分子までは成長できません。

大きな分子に成長させるためには、原子単位ではなく、部分構造・フラグメント単位で成長させることになります。これにより、大きな化学構造を生成することは可能ですが、フラグメントを持つという制限があるため、多様性の面では制限されることになります。また、原子単位・フラグメント単位で成長させるいずれの方法おいても、分子の安定性や合成可能性は考慮されていません。考慮するためには、これらに関するパラメータを y に含める必要があります。

もう一つの方法としては、生成モデルに基づいて化学構造を生成するアプローチです。物性や活性などのパラメータだけでなく、安定性や合成可能性をパラメータとして y に追加すれば、目標の条件を満たしつつ安定で合成可能な化学構造を生成させることができます。ただし、これはモデルベースのアプローチであるため、生成する化学構造の精度や適用範囲は、モデルに依存します。これにより、理論上は良好な化学構造であっても、現実には存在しないような構造が生成される可能性もあります。

今回は分子設計の枠組みの中で、化学構造を生成する方針を説明しました。対象とする分子設計や実験・シミュレーション系の目的に応じて適切な方針を選択したり、いくつかの方針で並行して化学構造生成したりすると良いでしょう。

なお、高分子化合物 (ポリマー) を対象にする場合でも、x がモノマー構造となる時は、低分子有機化合物として扱えますので、上記の化学構造生成の議論をそのまま転用できます。ぜひ分子設計をする際に参考になればと思います。

 

以上です。

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