金子研の論文が Case Studies in Chemical and Environmental Engineering に掲載されましたので、ご紹介します。タイトルは
Design of adaptive soft sensor based on Bayesian optimization
です。これは修士卒の山影柊斗さんが四年生~修士1年生のときに取り組んだ研究の成果であり、プラントごとの予測精度の高い適応型ソフトセンサーを、ベイズ最適化を駆使して自動的に決める論文です。
リアルタイムに測定することが困難なプロセス変数の値を推定する手法としてソフトセンサーが利用されています。ソフトセンサーとは、温度や圧力といった測定が容易なプロセス変数 x と、濃度や密度といった測定が困難なプロセス変数 y との間で構築された数理モデル y = f(x) のことです。リアルタイムに測定された x の値をモデルに入力することで、yの値をリアルタイムに推定できます。モデル構築には回帰分析手法が用いられます。回帰分析手法は、PLS, RR, EN, LASSO, SVR, GPR, LWPLS などいろいろな手法があり、
どんなデータセット、どんな y に対しても予測精度の高いモデルを構築することのできるベストな回帰分析手法があるわけではないため、データセットごと、y ごとにデータ解析をしながら適した回帰分析手法を選択する必要があります。
さらに、回帰分析手法ごとにハイパーパラメータがあり、ここでもデータ解析をしながら適したハイパーパラメータの候補を選択する必要があります。
では、回帰分析手法を選べて、ハイパーパラメータの候補を選べて、ソフトセンサー (y = f(x)) を構築できれば OK かというと、残念ながらそうではありません。
ソフトセンサーは、触媒の劣化や原料組成の変化といったプロセス状態の変化により、ソフトセンサーを運用する中で予測精度が低下してしまいます。これをモデルの劣化と呼びます。
モデルの劣化に対応するため、最新のプロセス状態にモデルを適応させながら、y の値を予測する必要があります。このような最新のプロセス状態にモデルを適応させる仕組みをもつソフトセンサーを、適応型ソフトセンサーと呼びます。適応型ソフトセンサーにおける適応のさせ方には、大きく分けて3種類あります。Moving Window (MW)、Just-In-Time (JIT)、Time Difference (TD) です。お察しのとおり、どんなデータセット、どんな y に対しても機能する適応のさせ方があるわけではないため、データセットごと、y ごとにデータ解析をしながら適した方法を選択する必要があります。
さらに、適応のさせ方ごとにハイパーパラメータがあり、ここでもデータ解析をしながら適したハイパーパラメータの候補を選択する必要があります。
以上をまとめると、適応型ソフトセンサーを運用するためには、
- 回帰分析手法
- 回帰分析手法のハイパーパラメータ
- 適応のさせ方
- 適応のさせ方のハイパーパラメータ
の最適な組み合わせを選択する必要があります。
これまでは、解析者・設計者が知識・知見・経験を駆使して、データ解析をしながら試行錯誤の後に適応型ソフトセンサーの組み合わせを決めていました。しかし、このようなやり方では、適応型ソフトセンサーの実装までに多くの時間が要してしまったり、局所最適な適応型ソフトセンサーが選ばれてしまったりします。
そこで、ベイズ最適化 (Bayesian optimization) を駆使して、
最適な適応型ソフトセンサーを設計する手法を開発しました。提案手法では、回帰分析手法、回帰分析手法のハイパーパラメータ、適応のさせ方、適応のさせ方のハイパーパラメータを数値化して x とし、適応型ソフトセンサーの評価指標 (適応型ソフトセンサーの予測精度や予測誤差を表す指標) を y とし、y を最大化もしくは最小化する x、すなわち適応型ソフトセンサーを最適化できます。
論文では、2つの異なるプロセスに対し、それぞれ y を良好な精度で予測できる適応型ソフトセンサーを選択できることを検証しました。
興味のある方は、ぜひ論文をご覧いただければと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
以上です。
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