2017年度4月に発足したデータ化学工学研究室 (金子研) ですが、お陰さまをもちまして、学生が2018年3月の学会で発表するまでに至りました。ご協力をいただいた皆さま方に感謝申し上げます。
というわけで、学会発表のために事前に提出しなければならない、要旨 (700字くらい) を学生が書いています。そして、書き終わったら学生と一緒にわたしがチェックします。マンツーマンの赤ペン先生みたいな感じです。3、4回学生との間でやりとりすると、要旨が完成するイメージです。
700字くらいの要旨とはいえ、金子研の顔として学会の参加者の目に触れますし、わりと丁寧に確認して修正します。わたしの名前も共同研究者として入りますしね。
学生の論文はまだですが、これから学生が論文を書くときも、同じように入念にチェックします。
ただ、学生として金子研にいるうちは、確認する人 (金子) がいますが、将来的に就職したり大学に残ったりして独り立ちしたときには、自分で書いた論文・要旨を、自分でチェックしなければなりません。
上司が丁寧に確認してくれるとは限らないわけです。
というわけで、論文・要旨を作成するときのチェックリスト 12項目をまとめておきます。実際、わたし (金子) も自分で論文・要旨を作るときはこれらを確認しています。
もちろん、
発表に値する研究成果がある、というのが大前提
です。
その上で、チェックリストの11項目はこちらです。
論文・要旨を作成するときのチェックリスト
- □ 読者層を理解している
- □ 想定する読者にとって分からない単語に説明がある
- □ いきなり省略した単語を使っていない
- □ 研究目的と結論が対応している
- □ 手法について汎用的な説明になっている
- □ (論文において) 結果が再現できる実験条件・シミュレーション条件をすべて載せた
- □ 論理構成を接続詞に頼っていない
- □ 図・表は、図・表を見てキャプション (説明文) を読めば理解できる
- □ 参考文献とその書き方は適切だ
- □ Wordの赤下線・青下線は想定内だ
- □ 音読して間違えがないことを確認した
- □ 自分で満足した出来栄えだ
順番に説明します。
1. 読者層を理解している
小学生の教科書と大学生の教科書とか違うように、論文や要旨においても、読む人に対応して その書き方を変えなければなりません。それぞれの研究分野によって使う単語・用語は違いますし、分野ごとの人によって知っていることも異なります。論文や要旨を読む人が、
- 化学の人
- 化学工学の人
- プロセス制御関係の人
- 創薬関係の人
- 材料関係の人
- 情報科学の人
などの、どの人なのかによって、使う単語・用語や書き方を工夫する必要があります。導入 (イントロダクション) の部分の書き方も変われば、手法の説明の仕方も変わるわけです。
論文や要旨を書くときには、まず読者層を理解しなければなりません。
2. 想定する読者にとって分からない単語に説明がある
論文や要旨の読者を想定したら、その読者に向けて論文・要旨を書くことになります。論文・要旨を読む立場になると理解できると思いますが、論文・要旨の中に分からない単語があると読みたくなくなってしまいます。そこで読むのをストップする人もいるかもしれません。なので、読む人がストレスなく読めるように、その人にとって分からないと考えられる単語・用語には、一言 説明を入れましょう。例えば、いきなり partial least squaresと書くのではなく、線形回帰分析手法の一つであるpartial least squaresと書いたり、いきなり構造記述子と書くのではなく、化学構造の情報を数値化した構造記述子と書いたりする感じです。
この書き方も、想定する読者に応じて工夫します。
3. いきなり省略した単語を使っていない
論文・要旨の中で初めて出る単語に、省略した単語を使うのはやめましょう。省略語だけだと意味が分からない読者がいたり、複数の意味をもつ省略語があるためです。複数の意味というのは、たとえば PCR だったら polymerase chain reaction も principal component regression もあります。もちろん丁寧に読めば文脈から判断できることもありますが、読者にとってはストレスになります。省略するときは、principal component regression (PCR) のように、最初に “正式な単語 (省略語)” と書いて、その後に省略語を使うようにしましょう。
ただまれに、QSAR, QSPR, PID など、分野によってはいきなり省略語を使っても問題ない場合もあります。それぞれの分野の他の研究者の論文や要旨を見て判断しましょう。
4. 研究目的と結論が対応している
一般的な読者が論文や要旨を読むときに気にしているのは、この人はどんな目的意識をもって研究をしているのか、です。なので、結論としてその目的をどのくらい達成できたのか気になるわけです。研究目的と全く関係ない結論を導いていたとしたら、じゃあ何のために研究したの? ってなります。もちろん、研究目的と結論が異なるということは、その間の論理構成もおかしいことになりますので、分かりにくい・読みにくい文章であると想像できます。
研究目的と結論が一致しているか確認しましょう。
5. 手法について汎用的な説明になっている
基本的に金子研では、何らかの新しい方法論を開発した、というのが研究成果になります。もちろん開発した手法が本当に機能するのか、本当に有効なのか、ケーススタディを行って確認します。
手法の章とケーススタディの章を書く上での注意点です。手法におけるいろいろな設定について、ケーススタディで設定した内容を、手法の項目に書いてしまうと、手法の汎用性が低下してしまいます。読む人によっては、論文・要旨の中のケーススタディでしか使えない手法、と読み取られてしまう危険があるわけです。基本的には想定した研究分野であれば使える手法ですので、手法の章では汎用的な手法の説明をして、ケーススタディの章ではその手法を使うという形で書くのがよいです。
6. (論文において) 結果が再現できる実験条件・シミュレーション条件をすべて載せた
誰が実験・シミュレーション・解析しても、同じ結果が得られるように、実験条件・シミュレーション条件・解析条件・計算条件などを論文に載せる必要があります。いくら結果がよくても、再現できなければ所詮絵に描いた餅です。文章量的に要旨にすべての条件を書くのは難しいですが、論文では必ず載せましょう。
7. 論理構成を接続詞に頼っていない
しかし・そのため・そこで などの接続詞についてです。基本的に、論理的で美しい文章は、接続詞がなくても意味が通ります。接続詞がなければ論理的でない文章というは、そもそも論理構成がおかしいのです。”そのため” と繋げないと前半部分が理由であることがわからないならば、理由としての文章の書き方がおかしいわけです。もしくは、そのような文章はそもそも理由になっていないといえます。論理構成を ”そのため” という接続詞に頼っているわけですね。
もちろん、読者が読みやすいように接続詞をつけるのはよいと思います。ただ、接続詞がなくても意味が分かる文章を目指し、接続詞を乱用するのは避けましょう。
8. 図・表は、図・表を見てキャプション (説明文) を読めば理解できる
文章だけでは分かりにくい説明を、図にしたり表にしたりします。
図や表は、それ単独で意味が分かるものにしなければなりません。もちろん図や表には、図1.・・・、表1.・・・のように、その図や表を説明する文章 (キャプション) もあります。図と説明文、表と説明文、のそれぞれセットで見るだけで、その図や表を読者が理解できるようにしましょう。
9. 参考文献とその書き方は適切だ
参考文献の引用の仕方についてはこちらをご覧ください
10. Wordの赤下線・青下線は想定内だ
Microsoft の Word では、デフォルトの設定で自動的におかしな文章の下に赤線や青線を引いてくれます。この線を参考にして、文章や単語を修正しましょう。
専門用語などの 一般的な辞書に登録されていない単語の下にも赤線が引かれることもあります。それらについては、想定内の赤線であれば問題なしとして無視します。全ての赤線が想定内になるまでチェックしましょう。
11. 音読して間違えがないことを確認した
タイピングのミス (タイポ) や、てにをは の間違え、主語と述語がつながっていない、などのちょっとした間違えについては、自分で音読すると気づくのがほとんどです。音読してケアレスミスがないか確認しましょう
12. 自分で満足した出来栄えだ
最後はやっぱり自分の論文・要旨を自分で満足できたかどうかです。自分に満足できたら私に見せてください!
というわけで、金子研の学生は、以上のチェックリストにすべて✓できてから、2部印刷して持ってくるなり、slackにあげるなりしてください。
以上です。
その他ワードの窓や表などの図表などの細かい設定についてこちらも参考になると思います
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