仕事で使える化学工学の7つの考え方

化学工学関係の研究・教育をしていると、化学工学における考え方は研究・開発以外にも使えるなぁと、いつも思っています。特に仕事を進める上で、その考え方を知っているのと知らないのでは、進捗に雲泥の差が出ると考えています。今回は、そのような仕事で使える化学工学の考え方を7つ紹介します。

 

 

ドライビングフォース

化学工学において大事なことの一つにモノの “移動” があります。物質の移動や熱の移動などです。物質を動かしたり (分離したり)、熱を動かしたり (熱交換したり) することは、現象を考えるときだけでなく、プラントを設計したり運転したりするときも重要です。何かが移動するということは、それに何らかの力が働いているということです。その力のことを駆動力 (ドライビングフォース, Driving Force) といいます。ドライビングフォースについての詳細はこちらです。

あなたのドライビングフォース(駆動力)は何でしょう?~物質(モノ)・熱、そして人を動かす~
律速に引き続き、化学工学において大事であり、広く社会にも通じる概念です。身近なところでは、洗濯物を早く乾かせたり、熱いものを早く冷ましたりするのに関係します。そこから、人をどう動かすかに通じるのです。ドライビングフォース (driving ...

 

仕事において、状況が目まぐるしく “動く” と思います。これを動かしているドライビングフォースは何なのか、検討することが大切です。

 

 

律速

化学工学の人たちが現象を見るとき、基本的には律速段階はどこかを考えます。ボトルネックはどこかということです。律速については、こちらの記事をご覧ください。

律速で社会を理解する~化学工学者にグループリーダー・マネージャが多いのは律速のおかげ~
化学・化学工学の分野で大切な概念の1つに『律速』があります。わたしの分離化学工学の講義でもよく出てきます。律速を聞いたことある人は、化学反応の律速段階、といった言葉のセットで出てきた、という方が多いのではないでしょうか。ただ律速は、化学反応...

 

仕事でも、律速段階を把握して、そこに注力することが重要といえます。

 

 

概念設計から詳細設計へ

化学工学では、モデリングをしたり化学プラントを設計したりするとき、まず概念設計として、わからないところはパラメータとして置いて、ざっくりとモデリング・設計します。物質収支や熱収支、化学的・物理的な法則によって、ざっくりと現象をモデリングしたり、プラントを設計したりするわけです。

次に、それに基づいて細かく設計を行う詳細設計に移ります。必要に応じて、より細かくモデリング・プラント設計を行い、置いておいたパラメータの最適化も行います。

いきなり詳細設計に入ってしまうと、部分的に完成できなかったり、必要なところを詳細に検討できなかったり、部分ごとにムラができてしまったりしてしまいますが、概念設計によってざっくりと全体を把握して理解しておくことで、それが起こる危険性が小さくなります。全体をざっと見てから、必要な箇所 (ボトルネック) を理解し、そこを詳細に見る、といった感じです。仕事でもこのような考え方は重要と思います。

 

 

制約条件ありの最適化

化学工学ではいろいろな最適化問題を解きます。収率を最大化したり、生産量を最大化したりするわけです。最適化問題を解くときには、必ず制約条件があります。原料の種類・量が限られていたり、使用する装置の仕様があったり、時間・コストが限られていることに由来する、制約条件です。制約条件がある中で、何かを最適化ということは、仕事のところでもあると思います。このとき、化学工学の分野で用いるような最適化手法の考え方を活用できると思います。

 

 

局所最適解ではなく全体最適解

最適化問題を解くときの考え方の中に、局所最適解 (ローカルミニマムやローカルマキシマム, Local Minimum or Local Maximum) ではなく全体最適解 (グローバルミニマムやグローバルマキシマム, Global Minimum or Global Maximum) を求めよう!というのがあります。最適化問題を解くと、何らかの解が求められますが、それが局所的な最適解にならないように注意するわけです。最適化問題を解くとき、探索範囲を広げたり、探索方法を工夫したりします。

仕事においても、局所最適解ではなく全体最適解を求めることは重要と思います。

 

 

実験計画法

最適解を求める方法の一つに実験計画法があります。制約条件の一つとして時間やコストがありますので、最適な解を求めるためにできる実験の数も限られています。限られた実験数の中で、より最適な解を見つけるための方法が実験計画法です。たくさんの実験候補の中から、全体を把握するために必要な実験候補を選択するわけです。選択の方針として、特徴量の間がなるべく無関係になるように、というのがあります。なるべく “ばらばら” に候補を選ぶわけです。2 つの特徴量の間に関係があると、どちらが “解” に影響を及ぼすかわかりにくくなってしまうためです。

このように、たくさんの選択肢がある中で、全体をとらえるために必要なものだけを適切に選ぶ、ということは、仕事においても重要といえます。

 

 

相互作用で終わらせない。解像度を上げて見る

化学工学において、いろいろな現象がありますが、それを説明するため、様々な “相互作用” が出てきます。原子間の相互作用もありますし、分子間の相互作用もあります。もう少しマクロな観点から、タンパク質、結晶、などの相互作用などもあります。このような “相互作用” は、いろいろなところで出てきますが、とても広い意味をもっています。具体的にどのような力が働いているのか、電気的な力なのか、ファンデルワールス力なのか、といったことを考えずに、相互作用という曖昧な言葉でまとめてしまっています。このままでは、分かったようで何も分かっていないことになってしまいます (Googleマップで日本の全体を見えたとしても、ある道に何が落ちているかはわからないようなものです)。これは、解像度上げて見る必要があります。

このように、曖昧な言葉でお茶を濁すことなく、解像度を上げて現象を見ることで、的確な解釈をするということは、仕事をする上でも大事と思います。

 

 

以上です。

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