一般的には、研究成果が出たら、その内容を論文化して学術誌に投稿します。ただ、一つ論文を書くのも一苦労です。論文書くの面倒だなあ・・・と思う人もいるのではないでしょうか。学生にとっては、学位を取得するために論文が必要な場合を除いては、論文を書くことはあまりモチベーションの上がるものではないでしょう。
学生によっては、研究室内の都合で、論文を書くように言われることもあるかもしれません。しかし実は、論文を書くことは、学生自身にとって多くのメリットがあります。メリットはこちらの 10 つです。
- 論理的思考力が向上する
- 研究背景が充実する
- 文章力や (英語の論文のときは) 英語力が向上する
- 査読者からの評価・フィードバックをもらえる
- 一つの作品に長く関わる経験ができる
- 研究成果を残せる
- 優秀な研究者としての証明書になる
- 錯覚資産 (自分は優秀だと相手を勘違いさせる力) になる
- 成長の証拠になる
- 他者貢献できる
それぞれ詳しく説明していきます。学生の皆さんにとって、論文を書くモチベーションが上がるきっかけになればうれしいです。
1. 論理的思考力が向上する
学会での研究発表の流れについてはこちらに書きましたが、
論文で書くときも、自己紹介や質疑応答がないだけで、基本的に流れは同じです。研究背景から始まり、背景から出てくる現状の問題や課題、問題や課題を乗り越えるための目的、目的を達成するための研究の方針、方針を実現するための手法、手法の有効性や目的を達成できたかを確認するための結果と考察、といった具合に、論文の内容を論理的に構成して、論理的な文章を作成しなければいけません。この過程の中で、論理的思考力が向上するわけです。
2. 研究背景が充実する
論文を書くときに、特に難しいのが研究背景の部分です。これまでの研究の流れを概観して、論文で対象とする問題点につなげる必要があります。あらためて研究背景を整理して文章化すると、考慮すべき研究分野や読むべき研究論文が出てくると思います。このようなプロセスを経て、研究背景がさらに充実するわけです。
3. 文章力や (英語の論文のときは) 英語力が向上する
自分で書いた論文を誰が読むかわかりません。不特定多数の読者に向けて、わかりやすく文章を書く必要があるわけです。文章の流れを整理したり、表現を工夫したりする中で、文章力が向上します。英語で論文を書くときは、他の英語の論文を参考にしたり、単語・文法など調べたりしながら書くことになりますので、英語力も向上しますね。
4. 査読者からの評価・フィードバックをもらえる
論文を学術雑誌に投稿すると、査読プロセスに入ります。
他の研究者である査読者 2, 3 人に、論文を確認してもらったり、批評してもらったりできるわけです。よい評価・わるい評価をもらえたり、研究や論文に足りない部分を指摘してもらえたりします。もちろん学会で口頭発表したりポスター発表したりするときにも、他の研究者からいろいろと指摘してもらえますが、論文では学会発表のように研究を紹介するときの制限時間はありません。制限時間のため学会発表は部分的にしか研究成果を発表できませんが、論文では、思う存分すべての研究内容を記載する書くことができます。そのような論文を査読者に丁寧に読んでもらえ、フィードバックをいただけるわけです。もちろん研究室内でも批評されたり議論されたりしていると思いますが、同じメンバーなので、議論の内容・視点が固定されがちです。別の視点をもった研究者に査読してもらえるのは、とても貴重な機会です。
5. 一つの作品に長く関わる経験ができる
論文執筆にも時間はかかりますし、その後の査読プロセスも結構時間がかかります。論文のような一つの作品に、長い時間をかける経験をする、ある意味でクリエイターのような経験をすることは、学生のうちにはあまりないのではないでしょうか。もちろん何人かの研究者と共同で実施されるものと思いますが、長い時間をかけて、自分が主体となって研究したり執筆したりした論文は、自分の子供のようであり、世に送り出すときには望外の喜びがあります。また長い時間をかけて一つの作品を仕上げたという経験は、将来きっと役に立つでしょう。
6. 研究成果を残せる
厳しい言い方かもしれませんが、いくら研究成果を出しても、人に知られなければ、研究成果を出していないのと同じです。もちろん同じ研究室の人たちには研究成果が伝わるかもしれませんが、数名に知られるだけです。学会発表したとしても、会場にいる人たちにしか伝わりません。しかも会場の人たちも 10 分程度聞いただけですので、すべて理解できるわけではないでしょう。
論文にすることで、世界中の人たちに研究成果を残すことができます。もちろん、こちらに書いたとおり、
研究成果を残す形として、論文を論文誌に投稿するだけではありません。将来的には、研究者自身に信用が貯まる形が望ましいです。ただ、現状は論文を論文誌に投稿するのが一般的でしょう。
7. 優秀な研究者としての証明書になる
たとえ有名な大学や有名な研究室を出たとしても、社会に出てから問われるのは、で、あなたは何をやったの?、です。大学でこんな研究やりました!、といっても、大学を出た人はだいたい研究していますので、他の人たちと差別化することはできません。ほんとに自分でやったの?、と思われるかもしれません。論文を書いたことのない学生が多い中で、論文を書いていれば、それが優秀な研究者としての証明書になり、他の人と差別化できます。TOEIC で高得点を取ることの、研究者版みたいな感じです。論文が優秀な自分を紹介する名刺代わりになるわけですね。
8. 錯覚資産 (自分は優秀だと相手を勘違いさせる力) になる
もちろん、論文を書いて大学を出たとしても、たとえば就職先で、その内容を理解できる人はめったにいないでしょう。しかし、大学でこんな研究して (英語で) 論文を書きました!、と相手に (たとえば上司に) 紹介すれば、相手は、研究の内容はよくわからないけど論文を書いたってことは優秀な人なんだな、と錯覚します。「錯覚」 と書いたのは、もちろん論文を書いた時点で優秀なのは間違いないのですが、ある研究分野で論文を書けるという優秀さと、仕事ができることとは、まったくの別物だからです。相手は錯覚して、論文を書けるほどの人であれば、仕事もできるだろうな、と勘違いするでしょう。論文が錯覚資産 (自分は優秀だと相手を勘違いさせる力) になるわけです。英語の論文であれば、その効果はさらに強力です。やりがいのある仕事を任せてもらえたり、出世したりするきっかけの一つになるでしょう。
9. 成長の証拠になる
研究室に配属になった直後は、とても論文を書けるとは思わなかったでしょう。1年後、2年後、3年後、論文を書けたら、その間に自分が成長したという、目に見える形での証拠になるわけです。
さらにいうと、他の人たちにもその成長をわかってもらう、つまり、自分はこの期間でこれだけ成長できます!、というのを伝えるためには、こちらに書いたとおり、
最初から、つまり研究室に配属になった直後から、たえずアウトプットしておくことがよいのです。
10. 他者貢献できる
論文を世の中に発表することで、人の役に立てます。自分がある研究をして、それを世の中に発表したということは、他のすべての人はその研究をやらなくてよいということです。他の人たちは、その研究内容については論文を引用すれば OK で、自分自身の研究に専念できます。研究をしていると、あまり他の人の役に立っているような実感はないと思いますが、論文を書いて公表することで、貢献感を得ることができます。
自分の論文を、他の人が引用しているのをみると、うれしいものですよ。
論文を書くモチベーションが上がったでしょうか。学生の皆さん、ぜひ論文を書きましょう!
以上です。
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