金子研の論文が ACS Omega に掲載されましたので、ご紹介します。タイトルは
です。これは 2022 年 1 月現在、社会人ドクターの森下敏治さんが取り組んだ研究の成果です。
熱的な危険性を早期に把握することは化合物の開発や保管、輸送、製造などにおいて重要です。一般的には各種の熱分析から得られた情報をもとにリスクを評価しますが、熱分析をするためにはある程度の量が必要になるため、開発初期に十分な評価を行えないことも多くあります。また、分析の作業にはそれなりの時間とコストが必要となります。化合物の構造情報から熱的な危険性を精度良く予測し、評価できれば、より安全かつ安定的に、化合物を取り扱うことができるようになります。
熱的危険性の評価基準の一つに、自己促進分解温度 (Self-Accelerating Decomposition Temperature, SADT) があります。SADT は、有機過酸化物や自己反応性物質の自己加速分解が起こる可能性のある最低の温度と定義されます。今回は、文献から収集した 65 個の有機過酸化物を用いて、分子記述子 を x、SADT を y として数理モデル y = f(x) を開発しました。x を計算する前に、まず Avogadro を用いて、Universal Force Filed による分子力学計算により Auto Geometry Optimization を実施します。続いて、GAMESS を用いて、DFT 計算を実施して構造最適化を行います。その後、alvaDesc や CODESSA により記述子を計算し x とします。
回帰分析手法として、Partial Least Squares (PLS) と Support Vector Regression (SVR) で検討しました。
さらに、Genetic Algorithm-based Partial Least Squares (GAPLS) と Genetic Algorithm-based Support Vector Regression (GASVR) により、モデルの予測精度の向上を試みました。
テストデータを用いてモデルの予測精度を評価することで、上記の手法により従来の SADT 予測モデルと比較して予測精度が大きく上昇することを確認し、さらにダブルクロスバリデーションにより幅広い SADT を予測できることを確認しました。
さらに、GAPLS や GASVR により選択された記述子や対応する化学構造の特徴を検討できるようになりました。
興味のある方は、ぜひ論文をご覧いただければと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
以上です。
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