金子研の研究成果の論文が Molecular Informatics に掲載されましたので、ご紹介します。タイトルは
です。これは博士前期課程の益山直己さんが学部四年生の頃に取り組んだ研究の成果です。
本論文は、広い温度範囲で液晶相を維持できるサーモトロピック液晶分子を、機械学習を用いて効率的に設計・探索する新しい手法を提案しています。
液晶材料はディスプレイやセンサーなど様々な用途で利用されていますが、過酷な温度環境でも安定して動作させるためには、液晶相を示す温度範囲が広い材料が求められています。しかし、従来の液晶開発は分子設計から物性評価までに多大な時間とコストがかかるという課題がありました。この課題に対し、本研究では分子の構造情報から特定の液晶相(コレステリック相、ネマチック相、スメクチック相)が発現するかどうかを分類モデルで判定し、さらにその相の転移温度(融点と透明点)を回帰モデルで予測するという2段階の機械学習アプローチを構築しました。
提案手法の最大のインパクトは、モデルの予測精度を劇的に向上させるために、最も安定な単一の分子構造だけでなく、ボルツマン分布を考慮した複数の立体配座(コンフォマー)の幾何学的特徴や、分子間力を反映するハンセン溶解度パラメーターを記述子として組み込んだ点にあります。液晶の相転移は現実空間での分子の熱的な挙動や相互作用に依存するため、このアプローチにより、従来の記述子のみを用いたモデルよりも高い精度で転移温度や液晶相の種類を予測することが可能になりました。
実際に構築した予測モデルを、データベース上の約2000万件という膨大な未知の化合物群に対して適用し、適用領域によるフィルタリングを経て仮想スクリーニングを行った結果、学習データに含まれる既知の液晶分子の最大温度範囲(182.0℃)を大きく上回る、温度範囲が206.7℃に達する新規の候補分子や、室温付近で極めて広い液晶温度範囲を持つ化合物を発見することに成功しています。また、合成容易性スコアも評価されており、化学的に合成可能で現実的な分子が提案されています。
本手法は従来の実験的な試行錯誤に依存していた液晶開発のプロセスを覆し、膨大な化学空間から実用的で過酷な環境にも耐えうる次世代の広温度範囲液晶材料を、極めて効率的かつ合理的に創出する道を切り拓いた点で非常に大きなインパクトを持っています。
興味のある方は、ぜひ論文をご覧いただければと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
以上です。
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