機械学習によりエポキシ樹脂の誘電率予測モデルを構築し、一般に入手可能なデータを用いてモデルの予測精度を向上させ、低誘電率を実現するモノマー構造を提案しました![積水化学工業&金子研の共同研究論文]

積水化学工業と金子研における共同研究の成果の論文が ACS Applied Polymer Materials に掲載されましたので、ご紹介します。タイトルは

 

Machine Learning Model for Predicting Dielectric Constant of Epoxy Resin with Additional Data Selection and Design of Monomer Structures for Low Dielectric Constant

 

です。これは共同研究として積水化学工業の方々と一緒に研究した成果であり、2023 年度修士卒の M2 の白木優也さんが取り組んだ研究の成果です。

本研究では、成型加工性が良好な反応性低分子の中でも代表的なエポキシ樹脂において、低誘電をもつと考えられる分子構造を提案することを目的としました。分子構造から計算された分子記述子 x と誘電率 (Dielectric Constant, DC)、ガラス転移温度 (Tg) といった物性 y の間で機械学習によりモデル y = f(x) を構築します。誘電率の測定値は測定時の周波数に影響を受け、その値が変化するという性質に対応するため、測定周波数の 1 GHz、10 GHz、100 kHzそれぞれでモデルを構築します。

10 GHzの誘電率予測モデルの構築には、サンプル数が少ないため、実験データと一般に公開されているデータベースである PoLyInfo から収集したサンプルから抽出したサンプルを追加して使用します。しかし、PoLyInfo は周波数が不明なサンプルを含むため、追加するサンプルを選択します。サンプル選択には、10 GHz の実験データで構築した機械学習モデルを用い、予測誤差の小さいサンプルを選択します。さらに予測精度を向上させるため、Tg の予測モデルも活用します。

誘電率を予測するモデルを構築した後に、仮想的なモノマー構造を大量に生成し、生成した構造をモデルに入力して誘電率を予測します。誘電率の予測値が良好なモノマー構造、すなわち誘電率の目標値を実現しうる構造を選択し、実際に合成します。さらに、仮想的に生成した構造と、実験データに含まれている構造の組成を振り、複合エポキシ樹脂として誘電率を予測します。複合エポキシの硬化物とは 2 つ以上の異なるモノマーが共重合してできた高分子であり、異なる構成単位がランダムまたはブロック状に並んでいます。モノマーA が 60% とモノマー B が 40% のモル組成比からなる複合エポキシの硬化物の場合、A : B = 0.6 : 0.4 のようにモル組成比で共重合の割合を表せます。誘電率の予測値が低い構造と組成を選択することで構造と組成を同時に最適化します。

仮想的な候補構造の生成には2つの方法を用います。1つ目は、主鎖と側鎖を用意して自由結合手をランダムに結合していく方法です。用いる主鎖と側鎖はデータセットにある分子を分解して得たものに加え、低誘電率を示すと予想される部分構造を選び加えます。この方法では、実験者の経験をもとに、主鎖と側鎖の選定を行うことができるため、低い誘電率が見込める構造を意図的に取り入れることができます。一方で、生成される構造が主鎖と側鎖の組み合わせの範囲内でしか構造が得られず、多様性に欠けるという欠点や、生成される構造の合成の可能性が分からないという欠点があります。

そこでもう一つの方法は、市販の化合物の化学構造から、化学反応の経路に基づいて生成物となる構造を仮想的に生成する方法とします。Diels-Alder反応やアルケンの付加反応などの約 20 種類の反応をSMARTS (SMiles ARbitrary Target Specification) パターンで数式化し、化学反応に基づいて構造を生成します。この方法には、合成検証のハードルを低減することを狙い、実際の化学合成でその合成反応経路と使用する試薬の情報があらかじめ得られるという利点があります。これにより、化学反応の反応ステップ数が少ない分子を意図的に選び、実際に合成する構造を選択できるようになるため、低いコストで所望の化学構造をもつ化合物を合成できます。

興味のある方は、ぜひ論文をご覧いただければと思います。

 

以上です。

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