金子研の研究成果の論文が Results in Chemistry に掲載されましたので、ご紹介します。タイトルは
です。これは修士卒の安藤瑠海さんが取り組んだ研究の成果です。
本研究は、アルツハイマー病の治療に用いられるアセチルコリンエステラーゼ(AChE)阻害薬の新しい候補化合物を、機械学習と生成AIを用いて効率的に設計および探索することを目的としています。AChE阻害薬は認知機能の改善に寄与する一方で、吐き気などの副作用を伴うため、体内で適切に代謝・排出されることが不可欠です。薬物代謝には主にシトクロムP450(CYP)とウリジン二リン酸グルクロノシルトランスフェラーゼ(UGT)という酵素が関与しますが、加齢に伴いCYPの代謝能力は低下するため、高齢者が主な対象となるアルツハイマー病治療薬においては、UGTに対しても高い親和性を持つ安全な化合物を特定することが極めて重要となります。
本研究では、既存の化合物の構造情報から計算された分子記述子を入力とし、様々な機械学習アルゴリズムを用いて、AChE阻害活性の指標であるpIC50と、UGT親和性の指標であるpKmを予測するモデルを構築しました。評価の結果、AChE阻害活性の予測には部分的最小二乗回帰(PLS)を用いたモデルが最も高い精度(決定係数r2 = 0.54)を示し、UGT親和性の予測にはガウス過程回帰(GPR)を用いたモデルが最も高い精度(決定係数r2 = 0.77)を示しました。
次に、構築したこれら二つの予測モデルと、敵対的生成ネットワーク(GAN)と呼ばれる生成AIを組み合わせて、新しい化合物の探索と設計を行いました。具体的には、大規模な化合物データベースであるZINCデータベースから抽出したデータや、GANによって生成された新しい仮想構造をモデルに入力し、高い阻害活性と代謝酵素への親和性を併せ持つ化合物をスクリーニングしました。その結果、現在広く使用されている治療薬であるドネペジルや、モデル構築に用いた既存化合物の最大値をも上回る、極めて優れたAChE阻害活性およびUGT親和性の予測値を持つ新規化合物の構造を複数特定することに成功しました。
これらの有望な候補化合物について、タンパク質との結合のしやすさをシミュレーションする分子ドッキング解析を実施しました。その結果、GANによって設計された新規化合物は、ドネペジルよりも標的タンパク質のポケットの奥深くまで入り込み、より強力で安定した結合を形成することが確認されました。これらの成果は、機械学習による予測モデリングとGANを用いた生成的設計を統合するアプローチが、優れた薬効と安全な代謝プロファイルを兼ね備えた新規のアルツハイマー病治療薬の発見を大幅に加速させる可能性を示しています。
興味のある方は、ぜひ論文をご覧いただければと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
以上です。
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