パナソニックと金子研における共同研究の成果の論文が Journal of Chemical Information and Modeling に掲載されましたので、ご紹介します。タイトルは
です。これは共同研究としてパナソニックの方々と一緒に研究した成果であり、修士卒の中西大和さんが取り組んだ研究の成果です。
なお、この論文は表紙絵に選出されています。
本論文は、次世代の電子デバイスやエネルギーデバイスの材料として期待される有機半導体において、生成モデルと機械学習を巧みに組み合わせることで、合成が現実的かつ高い電荷移動度を持つ新規分子を効率的に設計するデータ駆動型フレームワークを提案しています。有機半導体の性能を左右する電荷移動度を第一原理計算や分子動力学シミュレーションで直接評価するには極めて高い計算コストがかかり、広大な化学空間からしらみつぶしに探索することは事実上不可能でした。従来は移動度と密接な関係がある「再配向エネルギー」を指標とした機械学習による探索も行われてきましたが、合成が困難で実用的ではない複数の縮合環を持つ巨大な分子ばかりが特定されてしまうという課題がありました。
そこで今回は、有機半導体材料の分子構造の潜在表現を学習する階層型変分オートエンコーダ(HVAE)と、その潜在変数から正孔および電子の再配向エネルギーを関連付けるガウス混合回帰(GMR)を統合した手法を開発しました。低再配向エネルギーを持つ分子の潜在空間周辺にランダムなノイズを加えたり、ガウス混合モデル(GMM)を用いて潜在分布からサンプリングを行ったりすることで、環の数や分子量に制約を設けた「合成可能で現実的な」新しい分子構造の候補を多数生成することに成功しています。さらに、生成された候補分子に対し、再配向エネルギーと構造記述子を用いたベイズ最適化(BO)を適用し、実際に移動度の高い分子を効率的にスクリーニングするプロセスを構築しました。
この提案手法の最大のインパクトは、限られた計算資源と現実的な分子設計の制約の中で、高い性能を持つ未知の材料を潜在空間における逆解析から実際に発見できることを証明した点にあります。実際に本手法を用いることで、8環以下の分子において、硫黄から窒素へのわずかなヘテロ原子の置換によって、これまでの学習データの最小値を下回る、新たな最小正孔再配向エネルギーを持つ新規分子を発見しました。しかも、この新規分子は従来の最小再配向エネルギー分子の正孔移動度(1.24 cm²/(V·s))を大きく上回る、5.93 cm²/(V·s)という高い正孔移動度を示しました。さらにベイズ最適化のサイクルを通じて、データセット内でトップクラスとなる7.9 cm²/(V·s)の移動度に達する有望な候補分子も特定されています。本研究は、膨大な化学空間から実用的なサイズの高性能有機半導体材料をピンポイントで導き出せる手法を確立したものであり、材料探索の効率を劇的に向上させ、今後のマテリアルズ・インフォマティクスを大きく前進させる成果と言えます。
興味のある方は、ぜひ論文をご覧いただければと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
以上です。
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