データ化学工学研究室物語
第Ⅱ部 高精度モデルの落とし穴
学部四年生から修士課程へ。実際の研究で調べ、試し、考え、自分の問いを育てていく。
第7章 次に測る理由
五月の終わりが近づくころ、遥の画面には、まだ値の入っていない四つの箱が並んでいた。
前の報告会のあと、実験を担当する大学院生と相談するために描いた図だった。
同じ高分子で、二つの作製条件を比べる。
その対比を、別の高分子でも確かめる。
図の横には、先週の結果が残っている。原著論文と構造の重なりを避けた点検では、元の入力の MAE が 0.35、工程別の入力が 0.36。どちらも、二酸化炭素透過係数の常用対数の尺度だった。
その二つの数字を、もう一度小さい順に並べても、四つの箱は埋まらなかった。
「次は、データを増やすんだね」
隣の同期に言われ、遥はうなずきかけた。
増やしたいことに、間違いはない。
けれど、何を増やせば、今の疑問に近づけるのだろう。
「同じ作り方を、別の材料でも比べられる記録を探したい。それでも足りなければ、実験を相談したいと思ってる」
「新しい膜を作るんだ」
その言葉に、少し胸が高鳴った。
四月から、画面の中の数字をたどってきた。これからは、自分たちがまだ持っていない数字を、どう得るかを考える。
ただ、作って測れば、欲しい問いに答えるデータになるとは限らない。そのことは、今まで読んだ表が教えてくれていた。
遥は、四つの箱の上へ、最初の一文を書いた。
何を確かめるために、この組み合わせを測るのか。
最初に行ったのは、追加の文献調査だった。
今ある 9 報から引用先をたどり、同じ高分子について、作製条件を変えた報告を探す。検索する範囲と、比較に必要な条件も、先にメモした。
結果が高い膜だけを集めたいわけではない。二つの条件で何を変え、何をそろえていたかが分かる記録を探したかった。
候補の一報には、処理時間を変えた表があった。
遥は、四つの箱の一段目に置けそうだと思った。しかし、実験方法へ戻ると、時間だけでなく、処理する雰囲気も違っていた。
二つの手順を比べた結果としては使える。
でも、時間を変えた効果だけを示す記録にはならない。
別の報告では、同じ条件を別の高分子にも適用していた。ただし、片方の材料では二つの条件がそろわず、四つの箱の一つが空いた。
遥は、その論文を不十分だと分類しなかった。もともと、その研究が答えようとした問いは、自分の問いと同じとは限らない。
記載されている比較。
今回の問いに使える範囲。
今回の問いには足りない情報。
三つを分けて書いた。
新しく開いた文献にも、すでに集めた報告値が引用されているものがあった。その場合は、original_paper_id の対応表へ戻り、新しい測定結果が増えたとは数えなかった。
数日調べても、今回ほしい比較が、そのままそろったわけではなかった。
見つからないから、世の中に存在しないとは言えない。検索した範囲と、まだ確認していない資料を残した上で、遥は先輩へ話した。
「文献から比較の手がかりは増えました。でも、同じ項目をそろえた四つの組み合わせとしては、まだ埋められていません」
紺色のパーカーの先輩は、文献一覧より先に、四つの箱を見た。
「では、この箱に全部入れば、何が言えるようになりますか」
遥は、図の上へ二つの問いを書いた。
作り方を変えたときの違いを、同じ高分子と別の高分子で確かめたい。
新しく測った値を、測る前のモデルでどの程度予測できるか確かめたい。
似ているが、同じ問いではなかった。
「工程の違いを見たいだけなら、モデルがなくても比較できますね」
先輩に言われ、遥はうなずいた。
「はい。モデルの予測も残しますが、それに合ったかどうかだけを、実験の目的にはしません」
予測が外れたら、失敗したデータになる。
そんな計画には、したくなかった。
翌日の午後、先生と先輩、膜を作る実験を担当する大学院生が、打ち合わせ用の机に集まった。
遥は、前に見せた図を開いた。今度は、二つの問いがその上に付いている。
大学院生は、手元のノートを開いた。
「作製経験があって、原料も準備できそうな高分子が二種類あります。まず、この二つで相談するのはどうでしょう」
遥は、繰り返し単位を自分の構造一覧と照合した。
どちらも、今の 44 行に含まれる構造だった。
「これだと、新しい構造を予測した評価にはなりませんね」
「そうですね。その点は、実験の目的と分けておきましょう」
先生は、遥が書いた最初の問いを指した。
「今は、作り方の違いを、比較できる形で記録したいのですよね。まず作製を相談しやすい材料で、その比較を確かめることはできます」
大きな研究の目的は、未知の構造と作製条件を設計することだった。
その目的のための最初の実験が、いきなり未知の高分子でなければならないわけではない。
遥は、今回調べる範囲を書き加えた。
既知の二種類の構造について、新たに作製する膜を比較する。
未使用の高分子構造への予測性能は、別の検証として残す。
説明用の呼び名は、高分子 X と高分子 Y にした。第4章で手順を読み比べた膜 A と膜 B とは、別の材料である。
「何を変えたいですか」
大学院生の質問に、遥は工程表を開いた。
「最初は、乾燥に続く処理の、保持時間を変えたいです。温度と雰囲気、乾燥までの手順はそろえ、短い場合と長い場合を比べたいと思っています」
「文献にある二つの手順を、そのまま丸ごと比べるのではないんですね」
「はい。前の文献比較では、温度、時間、雰囲気が一緒に変わっていました。今回は、まず一つの操作の設定を変えた比較を作りたいです」
ただし、設定項目を一つ変えることは、膜の中で起きる変化も一種類だけにすることではない。
保持時間による違いが見えても、それだけで分子鎖の詰まり方や残留溶媒の量を測ったことにはならない。その機構を調べるなら、別の情報が必要になる。
遥は、その点も、最初の結論に混ぜないように書いた。
大学院生と、使える設備、既に試した作製手順、材料の扱える範囲を確認した。温度と雰囲気をそろえた上で、保持時間を 2 時間と 4 時間にする案が、最初の候補になった。
どんな高分子にも使える条件として選んだわけではない。今回相談している材料と装置に合わせた案だった。実施前には、実験担当者が作業手順と安全面を確認する。
図には、ようやく四つの組み合わせが入った。
高分子 X:保持時間 2 時間、4 時間。
高分子 Y:保持時間 2 時間、4 時間。
「X で違いがあれば、それでよいですか」
先生が尋ねた。
「Y でも、同じような違いが出るかを見たいです。X だけで確かめて、どの高分子にも同じように使えるとは言いたくありません」
「もし、X では大きく変わり、Y ではほとんど変わらなかったら?」
遥は、二つの横向きの矢印を見た。
「作り方の影響が、高分子によって違う可能性を考えます。二つの高分子をまとめた平均だけでは、その違いを見落とすかもしれません」
「まずは、その二本の矢印を、別々に見ましょう。二種類だけで、すべての構造について言えるわけではありませんが」
遥は、四つの箱を一つの順位に並べるための図ではなく、二つの比較を置くための図として描き直した。
「各条件で一枚ずつ作れば、四つ埋まりますね」
そう言ったあと、前の打ち合わせで大学院生が描いた、小さな膜の絵を思い出した。
同じ条件で作り直したときにも、同じ値になるだろうか。
大学院生は、その余白を指した。
「たまたま一枚だけ違ったのかも知りたいですね。同じ条件で、溶液の調製から別々に作る計画にしましょう」
まずは四つの組み合わせについて、それぞれ 3 回の作製を相談することになった。
合計 12 枚。
「3 回なら、違いがあると証明できますか」
遥が聞くと、先生は首を横に振った。
「それは、どのくらいの違いを見たいかと、どのくらいばらつくかにもよります。今回の 3 回は、限られた作製と測定の枠で、まず比較を始める計画です。十分な回数がいつも 3 と決まるわけではありません」
実験担当者の予定を見ながら、作製と測定に必要な時間も確認した。四つの箱を画面へ描くのはすぐだったが、一枚の膜が測れるようになるまでには、いくつもの作業があった。
何枚作ってもらうかという相談は、数字だけの話ではなかった。
打ち合わせが終わって席へ戻ると、遥は、12 枚の作製予定を表へ並べた。
最初は、高分子 X の短い条件を上から 3 回、その次に長い条件を 3 回と置いた。同じ条件をまとめた方が、作業しやすそうだった。
その右に、作製日を書く欄を加える。
短い条件が先の週、長い条件が後の週になった。
遥は、予定表を見つめた。
これでは、短い条件と長い条件の違いに、日が違うことまで重なるのではないだろうか。
原著論文ごとに色を付けたときと似ていた。
ある条件の記録が、一つの場所や時期にだけまとまっている。その条件と、そこに共通する他の事情を分けにくい。
遥は、先輩へ予定表を見せた。
「同じ作製回に、四つの組み合わせを入れられないでしょうか。短い条件だけを先に作ると、時間の条件と作製日が重なってしまいそうです」
先輩は、予定表の並びを見た。
「よい確認です。装置の使い方にもよるので、担当の人と順番まで相談しましょう」
次の相談では、日を変えた三つの作製回のそれぞれに、四つの組み合わせを含める案に直した。各膜は、溶液調製から別々に用意する。
装置上の制約が許す範囲で、作製や測定の順番を無作為に決め、一つの条件がいつも最初や最後にならないようにする。実際に行った順番も残す。
ただ順番を混ぜれば、すべての違いを消せるわけではない。
同じ作製回に何を共有したか、日が変わると何が変わり得るかも記録する。同じ原料のロットを使う範囲と、材料 X と Y でそろえられないことも、計画の中に残した。
「12 枚、全部が何の関係もない試料になるわけではないんですね」
遥が言うと、大学院生はうなずいた。
「作り直す単位は分けます。でも、同じ日の装置や原料を共有する部分はあります。その関係が後から分かるようにしておきたいです」
遥は、膜の一枚一枚に付ける番号とは別に、作製回を示す欄を加えた。
同じ箱に小さな膜を三枚描くだけだった図が、いつ、何を共有して作るのかが分かる図になった。
さらに、測定の記録を作り始めたところで、別の問題があった。
一枚の膜を、確認のためにもう一度測定した場合、表には二つの値が入る。
それを二行として保存することと、別々に作った二枚の膜として数えることは違う。
遥は、大学院生が説明してくれた測定の流れを、自分のノートへ描いた。
作製の計画。
実際に作った膜。
その膜に対する測定。
「例えば、12 枚をそれぞれ二回測ったら、値は 24 個になります。でも、作製した膜は 12 枚です」
数字を口にすると、文献の再掲を調べたときの区別が、今度は自分たちの実験に現れた。
同じ膜を測り直すことは、測定の繰り返しを調べる手がかりになる。
同じ条件で膜を作り直すことは、作製ごとの違いも含めて確かめるためのものになる。
どちらも必要になり得るが、入れ替えられるものではない。
まず、作製した膜と、得られた測定値を別の表に残し、番号で結ぶことにした。繰り返して測る場合には、測定した時点や、間に行った操作も残す。
時間がたって膜の状態が変わる可能性もある。二つの値が違ったとき、すぐに測定ミスと決めたり、何も確認せず平均したりはしない。
「解析で使う値は、いつ決めますか」
遥が尋ねると、大学院生は測定手順の説明を開いた。
「まず、測定が成立したと判断する基準を決めます。繰り返し測定をどうまとめるかも、予測に近い方を後から選ぶのではなく、同じ規則で扱えるように相談しましょう」
遥は、最初の比較では膜一枚ごとの値を基本の単位とし、測定の生データからどの手順で代表値を得たかを残す方針を書いた。
測定回数の多い膜が、その分だけ強い根拠として全体の平均を動かしてしまわないようにする。
細かな規則は、担当者の測定手順と照合して決める。分からないところを、自分の判断で埋めて完成した表にする必要はなかった。
その日の帰り、遥は対話型 AI に、作成した計画の要点だけを示した。
この計画で、作製した膜の数と測定値の数を混同しそうな箇所、条件の違いと作製日の違いが重なりそうな箇所を質問として挙げてください。物性値や実験結果は推測しないでください。
回答には、同じ膜から切り出した試験片も、別々に作製した膜とは限らないという確認があった。
遥は、膜の番号と試験片の番号を区別する必要があるか、大学院生に確認する欄を加えた。
一方、温度、雰囲気、溶媒も同時に変えて幅広く調べる案は、今回の計画には入れなかった。将来の候補として残すことはできる。しかし、今確かめたい二本の矢印が、別の実験に変わってしまう。
AI に提案してもらった項目を、全部足すことが丁寧さではなかった。
何を知りたいかに戻り、今回は何を変えないかも決める。
翌朝、遥は、実験の記録用ファイルと、モデルの予測用ファイルを並べた。
作る前に決めた保持時間や温度は、予測の入力として用意できる。
実際の作業で条件がずれたり、膜を作る途中で変更したりした場合、その値は、実施した条件として残す必要がある。
しかし、測定結果を見た後で実施条件へ差し替えて予測し直し、最初からその値を予測していたことにはできない。
遥は、記録欄を二つに分けた。
計画した条件。
実際に行った条件。
同じ表の中でも、いつ分かった情報かが違った。
先生との相談では、まず工程別の入力を使うモデルで、作製前の予測を保存することにした。意味の混ざった元の温度の一列を、そのまま実験指示に使い直すことはしない。
モデル構築に用いるのは、今ある 44 個の報告結果である。前章と同じ考え方で、原著論文と構造の重なりを避けた内側の検証により近傍数を選び、その後に 44 行すべてで学習し直す。
入力の定義、前処理、近傍数の候補、選ばれた値、学習データの版を、予測値と結び付けて保存する。
「今度の結果がよくなかったら、別のモデルも試してよいですか」
遥が聞くと、先生は答えた。
「もちろんです。ただ、それは結果を使った次の検討です。測る前の予測を確かめる仕事と、測った後に改善する仕事は、分けて残しましょう」
モデルを固定することは、二度と直さないという意味ではなかった。
どこまでを知らない状態で予測し、どこから新しい結果を参考にしたのかを、後からたどれるようにすることだった。
遥は、先に実験担当者と計画を確かめ、入力の範囲を確認してから、作製前の予測を保存する順番をノートへ書いた。
実験結果をモデルに追加するのは、その予測との比較を残した後にする。
今週は、四つの箱の物性値をまだ埋めない。
そのことを、遅れとは感じなくなっていた。
木曜日の報告会では、最初に、文献から確認できた範囲と、実験で確かめたい範囲を分けて示した。
「追加で読んだ文献は、工程の設定と計画を考えるために使っています。その結果を後で予測しても、まだ見ていない最終評価としては扱いません」
先生は、今回の四つの組み合わせへ目を移した。
「どの問いを先に確かめますか」
「既知の二種類の高分子で、乾燥後の処理の保持時間を変えたとき、透過係数にどの程度の違いが見られるかです。それを、作製ごとのばらつきと一緒に見ます。二つの高分子で同じ傾向になるかも分けて確認します」
「未知の構造への予測は?」
「この二種類は、モデル構築に使った記録に含まれます。今回の新しい実測値を予測する確認にはなりますが、未知の高分子構造への評価とは呼びません」
「工程別の入力が、別の研究にも通用すると証明できますか」
遥は、前の週と同じ 9 報の対応表を一枚だけ示した。
「今回の材料と設備、計画した条件に対する情報が増えます。でも、二種類の高分子で調べただけで、他の材料や研究室へ広く当てはまるとは言えません。まず、文献では切り分けにくかった比較を、こちらで記録をそろえて作ります」
先生は、四つの箱の下にある、三つの作製回を見た。
「どうして、この並びに変えましたか」
「最初は、短い条件と長い条件で作る日が分かれていました。それだと、保持時間の違いと日ごとの違いが重なります。同じ作製回に四通りを含められないか、自分から相談しました」
「その変更は、予測誤差を小さくするためですか」
「いいえ。違いが出たとき、何と何を比べたかを説明できるようにするためです」
先輩が、最初の予定表と修正した予定表を並べてくれた。
どちらにも、同じ 12 枚があった。
行数は変わらなくても、得られた結果から考えられることは、変わりそうだった。
続いて、先生は、測定結果の欄を指した。
「もし、膜にならなかった条件があったら?」
遥は、一瞬、測定できた行だけを使う表を思い浮かべた。
「作製を試みたことと、どこで進めなくなったかを残します。透過係数を 0 として入れたり、その条件を最初から計画していなかったことにしたりはしません」
「欠陥のある膜から、数値だけ得られた場合は?」
「測定の妥当性を、実験担当者と確認します。予測に近いかどうかではなく、先に決めた確認基準で扱います。比較に使えなかった記録も、理由を残します」
四つの箱を埋めることだけを目標にすると、数字が入った時点で安心してしまう。
値があることと、目的の膜について比較できる値が得られたことは、違った。
遥は、計画した作製数、実施した数、測定できた数、解析に使った数を、それぞれ残すと書き加えた。
先生は最後に尋ねた。
「保持時間を変えても、はっきりした差が見えなかったら、この実験は無駄ですか」
「無駄とは思いません。ただ、差が見えなかっただけで、保持時間は関係ないとも言えません。今回の範囲と回数で、作製ごとのばらつきに対してどこまで違いを見分けられたかを考えたいです」
「モデルの予測は、どう比べますか」
「膜ごとの実測値と、作製前に保存した予測を比べます。MAE と RMSE は、これまでと同じ対数の尺度で示します。ただし、新しい少数の膜に対する値なので、前の 44 行の MAE と並べてモデルが改善したとは言いません」
予測誤差を確かめることと、二つの作製条件の差を確かめること。
どちらも行うが、結果の表は分ける。
モデルが外しても、工程による違いを知る手がかりが残る。モデルが当たっても、物性が変わる仕組みまで分かったことにはならない。
先生は、計画へ短く書き込んだ。
「まず、この比較を実施できるように整えましょう」
報告会のあと、遥は、大学院生と記録用の表を確認した。
「この欄は、いつ記入しますか」
聞かれて、作業が終わった後の記憶だけで埋めようとしていた欄に気づいた。作製した時点で書く項目と、測定してから入る項目を分ける。
装置の予約と、実施前に確認する手順も、担当者とすり合わせた。
遥が一人で、実験の開始日を決めたわけではない。作業を見学する際の準備も教わった。
「条件表を渡したら、測った数字が返ってくると思っていました」
そう言うと、大学院生は笑った。
「どう比べるかから話してもらえると、こちらも必要な記録を考えやすいです。作っている途中で起きたことも、一緒に見ましょう」
席へ戻り、遥は相談した内容を整理した。
comparison_questions_v01.txt。
experiment_plan_v01.csv。
specimen_measurement_dictionary_v01.csv。
図だけでなく、決めた理由も残す。まだ担当者と確認する欄には、未確認と書いた。
前の 44 行と、紙の上にある 12 枚の予定を、同じデータとして結合しない。計画は計画であり、実測値はまだなかった。
slack には、計画の資料と、次の確認事項を共有した。
追加の文献から、使える比較と不足する項目を整理しました。
最初の実験案は、既知の二種類の高分子について、処理の保持時間を二通りとし、各条件で 3 回作製する比較です。
同じ作製回に四通りを含める案と、膜・試験片・測定の対応を相談しています。
作製前の予測と、実際に得られる記録を分けて保存します。未知構造の評価や一般的な工程効果を証明する実験とは位置づけていません。
次は、手順と記録項目を確定し、実験担当者と作製の準備を進めます。
送信したあと、遥は、自分の机の端に置いた四つの箱を見た。
最初に描いたときは、空いている場所へ数字が欲しかった。
今は、その数字が、どの膜を、どのように作り、いつ測ったものなのかまで、一緒に残したいと思っている。
原著論文の注記が足りずに迷ったとき、自分ならもっと詳しく記録できる気がしていた。
実際に計画してみると、記録する側にも、先に決めなければならないことがたくさんあった。
未来の自分が、この一行へ戻ってきたとき、何を確かめたくなるだろう。
遥は、作製予定の番号を一つ、ノートに写した。その隣の透過係数の欄は、白いままにした。
空欄を残したのは、埋め方が分からないからではなかった。
そこに何を入れるために、次に何をするかを、今度は説明できた。
同じ条件で作った膜は、どのくらい同じになるのだろう。
その問いを持って、遥は次の打ち合わせへ向かうことにした。
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