協奏的な有機合成反応における機械学習手法と、既存の収率を超越する触媒設計手法を開発しました![理化学研究所&金子研の共同研究論文]

理化学研究所と金子研における共同研究の成果の論文が ACS Omega に掲載されましたので、ご紹介します。タイトルは

 

Design of Experimental Conditions with Machine Learning for Collaborative Organic Synthesis Reactions Using Transition-Metal Catalysts

 

です。これは共同研究として理化学研究所の方々と一緒に研究した成果であり、修士卒の江尾 知也さんが修士のときに取り組んだ研究の成果です。

今回ターゲットとした反応系は、論文の最初の図 (Graphical Abstract) にもあるような、Buchwald–Hartwig-type Cross-Coupling (BHCC) 反応と Suzuki–Miyaura-type Cross-Coupling (SMCC) 反応が協奏的に進行する系です。この反応系において、理化学研究所では基質や遷移金属触媒をかえて (他の実験条件はかえずに)、BHCC 反応の生成物の収率と SMCC 反応の生成物の収率のデータを取っていました。想定される反応経路はありますが、基質や遷移金属触媒の違いによる各生成物の収率の変化を説明するのは難しい状況でした。

そこで、機械学習によって基質と遷移金属触媒から各生成物の収率を予測するモデルを開発することにしました。今回は入力する化合物として、基質と遷移金属触媒の二種類があり、それらの組み合わせやサンプル間の類似度を適切に評価する必要があるため、説明変数 x として数値化の方法を 6 通り考案しまして、さまざまな機械学習手法と一緒に検証しました。その中で最も予測精度の高いモデルを構築できる数値化手法および機械学習手法を選択します。

それらの手法を用いて、2つの生成物の収率を予測するモデルを構築し、BHCC 反応が優先的に進行する触媒および SMCC 反応が優先的に進行する触媒をモデルに基づいて設計しました。設計された触媒を用いて、実験により各化合物の収率を検証したところ、機械学習で予測した各生成物の収率と実験で得られた収率とが非常によく合いました。

その後、基質が官能基 X = Cl (Aryl Chloride) のときに、これまでの実験データでは BHCC 反応の化合物の収率が 10 % を超えなかったため、Aryl Chloride を使用した場合に 10 % を超える実験条件を目指しました。今回の反応系の実験データだけでなく、色々な文献の実験データを追加して、転移学習により新たな収率予測モデルの検討もしています。構築されたモデルに基づいて触媒設計をしまして、実際に合成して検証したところ、これまで10%以下だった収率を 30% 以上に向上させることに成功しました。

興味のある方は、ぜひ論文をご覧いただければと思います。

 

以上です。

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