金子研の研究成果の論文が Journal of Chemical Information and Modeling に掲載されましたので、ご紹介します。タイトルは
Generation of Molecules Near the Applicability Domain Boundaries of Property Prediction Models
です。これは博士前期課程の内堀優太さんが学部四年生の頃に取り組んだ研究の成果です。
なお、この論文は表紙絵に選出されています。
本論文は、機械学習による材料設計において、予測モデルの適用領域(Applicability Domain, AD)の境界付近に位置する新規分子を効率的に自動生成する画期的な手法を提案しています。従来の機械学習に基づく分子設計では、ADの内部を探索すれば物性予測値の信頼性は担保されるものの、既存の化合物と似た構造に留まるため、物性値の大幅な向上は困難でした。その一方で、ADの外部は未知の構造空間であり物性値が飛躍的に向上する可能性を秘めているものの、モデルの予測精度が著しく低下してしまうという強いジレンマが存在していました。
この相反する課題を解決するため、本研究は予測の信頼性を確実に維持しつつ、物性の大幅な向上が期待できるAD境界付近の化学空間を重点的に探索するアプローチを考案しました。具体的には、深層学習を用いた分子生成モデルであるFeedback GANにADの概念を統合し、GANによって生成された分子のなかからAD境界に近いものを優先的に選択し、学習データ内のAD境界から遠い分子と入れ替えて再学習を繰り返す独自のフィードバックループを構築しました。
提案手法の有効性を、沸点、融点、水溶解度という特性の異なる3つの実データセットを用いて検証した結果、従来の手法と比較して、AD境界付近の化学構造を極めて高い割合で効率的かつ集中的に生成できることが実証されました。さらに重要な点として、この手法で生成された分子群は、構造の多様性、新規性、一意性が高く保たれているだけでなく、合成難易度の観点においても、ADの遥か外側で生成されがちな巨大で複雑すぎる合成困難な構造を回避し、現実に合成可能な有望な分子を多数提示できることが確認されています。また、初期の学習データをデータベースからランダムにサンプリングすることで、生成される分子の多様性が一層向上することも見出されました。
本手法の最大のインパクトは、これまでトレードオフの関係にあった機械学習モデルの予測信頼性の確保と、既存の枠組みを超えた高性能材料の探索を見事に両立させた点にあります。本成果により、有機半導体をはじめとする高機能材料の設計において、手戻りの少ない効率的な新素材探索が可能となり、研究開発を飛躍的に加速させる強力な基盤技術となることが期待されます。
興味のある方は、ぜひ論文をご覧いただければと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
以上です。
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